今回は、起業のタイプについて考えます。
みなさんは起業といえば何をイメージしますか。「高層ビルにオフィスを構えた会社」、それとも「こだわりの材料を使った地元のお店」でしょうか。
起業の姿は千差万別ですが、大きく2つのタイプに分かれます。それらを中小企業白書では「地域需要創出型」(本コラムでは「スモールビジネス」)と「グローバル成長型」(本コラムでは「ベンチャービジネス」)と呼んでいます。例えば、スモールビジネスはご近所を主な顧客とするカフェの開店、ベンチャービジネスは大学の最先端技術を活用した起業が該当します。
文字を除く図はマイクロソフト オフィス クリップアートより
スモールビジネス |
若手・女性層などが中心となって、個人や少数従業員の企業、複数人による協働をはじめ、活力ある?小さな企業”として、主として地域の需要や雇用を支えるものとして起業・創業するもの |
ベンチャービジネス |
大企業等からのスピンアウト人材等が、高度な技術・サービス・システムや革新的なビジネスモデルなどをベースに、グローバル市場の獲得を念頭に迅速な事業拡大を目指して起業・創業するもの |
説明文章の出典:中小企業庁『2013年版中小企業白書』47頁
2つの「起業」には様々な違いがあります。その中で、特徴的な違いを確認しましょう。
地域の需要を対象にするスモールビジネスでは、自己資金や補助金などを除くと、金融機関からの融資(借入)が主な財源となります。借入ですので、「返済していくこと」が必要です。そのため起業直後から売上・利益を獲得し、借入金を返済していくことが求められます。
ベンチャービジネスでは日本全国や世界の需要を相手にします。そのため、多額の資金が必要となり、投資資金が重要な財源となります。投資資金ですので、返済は不要ですが会社の経営権には注意が必要となります。また、売上や利益がでるまで時間がかかってもいいのですが、その間、成長性を立証し続けることが必要となります。
スモールビジネス |
ベンチャービジネス |
地域の需要に対応 |
日本・世界の需要に対応 |
安定性を重視 |
成長を重視 |
融資資金が当初の財源 |
投資資金が当初の主な財源 |
スモールビジネスとベンチャービジネスで、事業の立ち上げや成長の道筋が全く異なります。そのため起業支援の方法も異なってきます。今後のコラムでは、どちらかのタイプに限定した話の場合は、それを明記します。
ところで、このように2つを並べると、「会社は大きくなるほうがいいから、ベンチャービジネスの方が大事じゃないか」と思う人もいるかもしれません。それは間違いです。例えば、ベンチャービジネスは成功する可能性は高くはありません。また、数もそれほど多くはありません。細かい統計数字はありませんが、日本に存在しているベンチャービジネスは累計で「数千社から1万社程度のオーダー」といわれています(注1)。ここから推測すると毎年の起業数は数十〜数百社の単位でしょうか。一方、日本には約380万社の企業が存在し、開業率は5.6%です。ということは毎年約20万社が生まれていることになります(注2)。つまり、毎年生まれる起業の圧倒的多数はスモールビジネスなのです。
注1:日本政策投資銀行(2001)「我が国におけるベンチャー企業の状況」。
http://www.iis-net.or.jp/files/wing21/006/200109585.pdf
注2:380万社×5.6%=21万社。ただし、これは概数計算です。
2つの起業は、どちらがいいというものではありません。各地域のなかで、両者をどのように位置づけて成長させていくかということが重要です。その実現策を検討していきます。
本コラムでの準備編はこれで終わりです。次回からは、事例紹介に入っていきます。
・起業には2つのタイプがあります。 |
・スモールビジネスの活性化 茨城県取手市・龍ヶ崎市の事例
第1回:起業の現状はどのようになっているのか
http://www.og-cel.jp/information/1278928_15932.html
(執筆者:エネルギー・文化研究所 研究員 奥田 浩二)
本コラムでは、起業で地域を元気にするための鍵を考えていきます。記載内容は、執筆者が入手した情報をもとにしていますが、執筆者の意見を含んでいます。各内容は、執筆者が所属する機関・企業の公式・公的な見解を表明するものではありません。