今回紹介する事例は茨城県取手市・龍ヶ崎市で展開されている「スモールビジネス」を促進する取組みです(注1)。
(「スモールビジネス」については、第2回の記事をご参照ください)
第2回 2つの起業タイプ http://www.og-cel.jp/column/1279678_15959.html
注1)本稿は「関西ベンチャー学会誌」(Vol.11、2019年2月発行、関西ベンチャー学会)掲載論文を再編集したものです。ただし、情報は一部更新しています。
今回の事例は、最初、取手市から始まりました。
取手市は茨城県の南端に位置する、人口約10万人、企業数2176社(注2)のまちです。
注2)2016年。RESAS(地域経済分析システム)より。 https://www.resas.go.jp
取手市では、2015年12月に「(一社)とりで起業支援ネットワーク」(以下、Match取手)を設立し、「起業家タウン」の実現を掲げました。
起業家タウンとは、
・起業でまちを元気にすること
・市民運動で起業環境と起業文化を変え、誰もが起業家になることを応援する社会の実現
を目指したものです。
そして、2016年2月から様々な取り組みを実現していきます。
取手駅の駅前ビルの5階に起業家が活動する拠点を2月にオープンしました。空いている机や椅子を自由に使えるシェアスペースや、一人用ブース、数人で使える個室を備えています。広さは114坪、最大200人に対応できます。企業数2176社のまちにしては、かなり広い場所ですが、これには理由があります。その種明かしは次回行います。
社長塾は、月1度開催する起業家向けセミナーです。地元の現役社長・店主をスピーカーに迎え、起業のきっかけや経緯を語ります。これから起業する人にとっては貴重な情報源となります。
地域で起業を活性化するには、地元の既存事業者の応援は不可欠です。起業家を応援する地元事業者を組織化する取組みが起業応援団です。応援団になった事業者は、店先に「応援のぼり」を掲揚し、起業家が来店した際には割引サービスなどを提供します。
起業家は登録することで起業家カードを所有することができます。このような登録制度は日本初とのことです。起業家カードを提示すると、起業応援団の店舗で割引サービスを受けることができるなどの特典があります。
活動内容を告知する無料の冊子です。起業家向けのイベントの紹介や地元事業者の紹介などが記事となります。事業者にとっては紹介されることは貴重なPR機会となります。また情報誌は、掲載した事業者を社長塾や起業応援団に誘導するきっかけにもなっています。
筆者撮影
今回、紹介した5つの取組みは各々の役割・機能とともに、互いにつなげることで相乗効果を目指しています。例えば、情報誌を入り口として、地元事業者と接点を作り、起業応援団や社長塾に招きます。一方、起業家は情報誌や社長塾で起業に関心をもち、起業後はレンタルオフィスや起業家カードを活用していきます。単一の取組みだけで起業活動を活発にするのではなく、複数の取組みを有機的につなげていくこと。ここに取手市の取組みの特徴があります。
このように始まった取手市の取組みは、2017年には隣の龍ヶ崎市にも広がっていきます。(次回に続く)
・取手市では、起業促進のための組織を立ち上げ、「起業家タウン」の実現を宣言しました。 |
・スモールビジネスの活性化 茨城県取手市・龍ヶ崎市の事例(中編)
第1回:起業の現状はどのようになっているのか
http://www.og-cel.jp/column/1278645_15959.html
第2回:2つの起業タイプ
http://www.og-cel.jp/column/1279678_15959.html
(執筆者:エネルギー・文化研究所 研究員 奥田 浩二)
本コラムでは、起業で地域を元気にするための鍵を考えていきます。記載内容は、執筆者が入手した情報をもとにしていますが、執筆者の意見を含んでいます。各内容は、執筆者が所属する機関・企業の公式・公的な見解を表明するものではありません