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2023年09月27日 by 山納 洋

【シリーズ】街角をゆく Vol.4 上狛(京都府木津川市)


こんにちは。エネルギー・文化研究所の山納洋(やまのう・ひろし)です。    


僕は2014年から「Walkin'About」という、参加者の方々に自由にまちを歩いていただき、その後に見聞を共有するまちあるき企画を続けています。

その目的は「まちのリサーチ」です。そこがどういう街なのか、どんな歴史があり、今はどんな状態で、これからどうなりそうかを、まちを歩きながら、まちの人に話を聞きながら探っています。

この連載ではWalkin'Aboutを通じて見えてきた、関西のさまざまな地域のストーリーを紹介しつつ、地域の魅力を活かしたまちのデザインについて考えていきます。

 

今回ご紹介するのは、京都府木津川市山城町のJR奈良線・上狛(かみこま)駅周辺。地図に見えるように、木津川が大きく曲流する内側に形成された場所にあります。

ここには上狛茶問屋街という、茶葉を商う問屋が集まる一角があります。全国的に有名なのは、「伊右衛門」でサントリーとコラボレーションしている福寿園ですが、界隈には茶問屋が24軒あります。最盛期には150軒あったそうです。

            杉本万吉商店


2020年10月にWalkin‘Aboutで木津を訪れた時に、ここにある「杉本万吉商店」を訪ねました。ご主人はちょうど作業を終えたところで、いろいろとお話を伺えました。

ここは仕上げ加工を担う産地問屋で、農家から仕入れた茶葉の茎を取り、粉を飛ばし、茶葉を刻んで整え、宇治や京都、大阪にある消費地問屋に出荷しています。創業は明治2年(1869)で、今年で154年。ご主人の杉本知三さんは6代目だそうです。

 

南山城のお茶は、煎茶と玉露が中心です。煎茶とは新芽の茶葉を蒸して揉み、乾燥させたもので、玉露とは収穫前に20日以上茶畑に覆いを掛ける「覆下栽培(おおいしたさいばい)」によって苦みを減らし、旨味を増したものです。ちなみに抹茶は覆いをして育てた茶葉を揉まずに乾燥させ、すりつぶして粉状にしたものをいいます。

 

          煎茶の茶葉

 

杉本さんからは、こんなお話を伺いました。

「農家から届いた茶葉には値段はない。僕らが見て、匂って、触って、淹れて、値付けをする。そこから流通が始まる。」

「茶葉を仕入れている農家は、南山城、加茂、和束にある。昔は、加茂や南山城からは船で、和束は山の中なので牛車や自転車で運んできていた。」

 

杉本万吉商店には、店名が入った立派な火鉢がありました。ご主人の祖父が信楽で誂えたものだそうです。昔の茶問屋にはどこでも火鉢があり、鉄瓶が乗っていて、商談中にいつでもお茶が出せるようにしていたそうです。

            杉本万吉商店の火鉢

 

南山城では室町時代に茶の栽培が始まりましたが、上狛の地に茶問屋が集積したのは明治以降のことです。幕末の開港期に煎茶が主要な輸出品となったことで、茶葉の出荷を増やすために山間部にも茶畑を広げました。南山城、加茂、和束の茶農家で摘まれた茶葉は上狛まで運ばれ、茶商の手により加工精製され、上狛浜から船で木津川と淀川を経て神戸港まで運ばれ、そこから海外へと輸出されていました。大正時代初めの最盛期は150軒の問屋があったそうです。

 

  明治時代に使用されていた茶の輸出用箱ラベル

     (公社)日本茶業中央会所蔵


上狛には七条七之助という茶商がいました。生まれたのは明治19年(1886)。彼が20代の時に神戸の貿易商社に売り込み、大量の注文を取ってきたことで、上狛に茶商が増えたのだそうです。七之助は「ほうじ茶の祖」と呼ばれ、日本で初めてほうじ茶を商品化し、販売した人物でもあります。


その後、煎茶輸出の中心地は静岡に移りました。上狛では国内販売に力を注ぎ、より付加価値の高い商品にシフト。七之助は新聞・雑誌広告などを積極的に打ち出し、ブランド戦略よって南山城のお茶の地位を確立していきました。

 

  組合設立120周年を記念して建立された「山城茶業之碑」


上狛は問屋街ですが、小売にも対応いただけます。福寿園資料館では500円で玉露をいただくことができ、建物や製茶にまつわる機械なども見学できます。また全国茶審査技術競技大会で「利き茶日本一」になった丸又園の川邊佳秀さんは、木津川オリジナルのブレンド茶に取り組んでおられます。

 

         福寿園資料館の展示


茶葉の産地である和束町では、2000年代後半頃からは六次産業化の取り組みが進み、和束茶としてブランド化されています。町内の茶農家などが中心となって「和束茶カフェ」を運営し、農家直売のお茶や、地元主婦グループが作るお茶を使ったスイーツなどを販売しながら、町内の見どころ案内などもされています。丘陵地には一面茶畑が広がる素晴らしい風景が今も残されています。

           和束町の茶畑風景


平成27年(2015)に、京都・山城は「日本茶800年歴史散歩ストーリー」として日本遺産に認定されています。対象は宇治市、城陽市、八幡市、京田辺市、木津川市、宇治田原町、和束町、南山城村、久御山町、井手町、笠置町、精華町の5市7町。

これらの地域では、約800年間にわたり多種多様なお茶を作り続け、わが国の喫茶文化の展開を生産、製茶面からリードしてきました。製茶業・卸業の歴史に裏打ちされた景観を今に伝えている、興味深い場所です。

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