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2023年10月19日 by 山納 洋

コモンズを生み出す公共空間

こんにちは。エネルギー・文化研究所の山納洋(やまのう・ひろし)です。


僕は「場づくり」への関心から、これまでに劇場・インキュベーション施設の企画・運営、カフェ、およびカフェ的交流の場のプロデュースなどに携わってきました。この4月にCELに移ったのを機に、「場づくり」を持続可能な地域づくりにつなげていくための方法論を研究し、また現場でのさらなる実践を重ねていきたいと思っています。


今回は、公共空間とコモンズとの関わりについて。


2017 年の都市公園法改正で公募設置管理制度(Park-PFI)が創設されて以降、民間事業者による公園の活用が進んでいます。カフェやレストランなどの飲食施設の導入やマルシェの開催などが一般的ですが、中には図書館、ジムなどの文化・スポーツ施設、ホテル、キャンプ場などの宿泊・レクリエーション施設などを設置するなど、公園空間の可能性を広げる取り組みが徐々に充実してきています。

 


その一方で、日本の公園では近年さまざまな行為が禁止されるようになってきています。例えばこの看板には、リードを付けない犬の散歩、犬の用便、車両の乗り入れ、球技・スケートボード・打ち上げ花火・たき火、ごみ・タバコ・空き缶などのポイ捨て、家庭ごみの持ちこみ、物品の販売、掲示物・建築物・テント等の設置、落書きなどの禁止事項が書き連ねられています。


これらのルールの中には、法律や条例などで規定されているものもありますが、ほとんどは公園管理者が独自に設定しているものです。そしてこうしたルールは、住民からのクレームや苦情を受けて増えていく傾向にあります(この公園の古い看板にあった禁止事項は「野球」と「キャッチボール」だけでした)。こういう禁止看板が一般的なので違和感を覚えない、という方も多いかも知れませんが、公園とは本来そういう場所ではありませんでした。そして今後、公園が民間事業者によるサービス提供の場として認識されるようになると、この傾向はさらに進んでいく可能性があります。

 


では、公園とはそもそもどういう場所だったのでしょうか?


このことを考えるにあたり、僕が2018年から19年の間に滞在していたアメリカ・マサチューセッツ州ケンブリッジ市の近隣地区での事例を中心にご紹介します。


この写真は、ジョアン・ローレンツ公園で見かけた看板です。書かれているのは「シェアスペースプログラム」についての諸注意です。この公園では午前8時から10時の2時間は犬を放し飼いにできるのですが、その際には「許可証を表示すること」「他の公園利用者や近隣の人たちに敬意を払うこと」「飼い犬が基準を満たしているか確認すること」などのルールに従うことが求められています。


このルールは、ケンブリッジ市と住民たちが10年間をかけて話し合い、社会実験を重ねた後、2015年に市内のいくつかの公園で導入されています。犬を飼っている人、飼っていない人双方の立場を尊重しつつ、双方が対立することなく同じ空間をシェアできるように作り上げられたのでしょう。


アメリカの都市公園の多くは「コモン」と呼ばれる、住民が牛を放牧するための共有地に由来しています。つまり公園は市民にとって「自分たちの場所」であり、そこを使うためのみんなが納得できるルールを、話し合いを通じて決めていく必要があるという意識が根底にあるのです。


 


次の写真は、ニューヨーク・ビレッジにあるワシントンスクエア公園です。僕が日曜日に行った時には様々な人たちが公園内に自分たちの活動を持ち込み、とても賑わっていました。ニューヨーカーたちは公園を楽しむのが本当に上手だなと実感しました。


実は1950年代には、この公園では4車線の高速道路を貫通させる都市開発プロジェクトが進められていました。計画を進めていたのはニューヨーク市の都市計画家・ロバート・モーゼスです。『アメリカ大都市の死と生』などの著作で知られる都市活動家・都市研究家であるジェイン・ジェイコブズは、市民によるプロジェクトへの反対運動を大々的に組織し、阻止に成功しています。つまりこの公園は、市民が力を合わせて守った場所なのです。与えられたのではなく自ら獲得した場所という歴史が、人々が自発的にこの場所を活用していこうという気概につながっているのでしょう。


 

次の写真は、トレモント通りで開催されていた「ブロックパーティ」の風景です。近所の人たちがテーブルや椅子を持ち出し、料理やお酒を持ち寄り、みんなで食べながら喋るというシンプルなスタイルのパーティです。通りかかった時に"Why don't you join us?"と気軽に誘ってもらえたので、輪の中に入り話を伺いました。


このパーティは20年以上前から毎年春と秋に開催されているそうです。近隣地区の治安が悪化していたことから、顔の見える関係を作ることで環境を変えたいと考えた住民たちが家の敷地内で始めたものですが、ケンブリッジ市がブロックパーティを支援する取り組みを始めたことで、路上で開催できるようになったそうです。当日の運営を担う市民が、支援者の署名を集め、チラシを作れば車の往来を止める許可を得ることができ、さらに200ドルの助成金を得たり、子どもたちが遊ぶための道具の貸し出しを受けたりもできます。

 

このように、アメリカにおいては、公園や公共空間は自分たちの場所であり、住民たちはその場所を楽しみながら活用していること、健全なコミュニティの維持に繋げていること、様々な背景の人たちが共存できるようにルールを作って運用していることが分かります。


翻って日本の状況を考えてみると、公園や公共空間は行政が管理しているものであり、迷惑なことが起こった場合には行政に解決してもらう、といったマインドが強くなり過ぎているように思えます。この意識が変わることがなければ、いくら公園をきれいにしても、お洒落なカフェやレストランを作っても、豊かな市民生活の実現につながったとは言えないのではないか、僕は個人的にはそう思っています。


実は、公共空間をより豊かなコミュニケーションの場にしていこうという取り組みは、日本でもあちこちで行われています。



僕自身も関わった事例としては「リュックサックマーケット」があります。これは「自分にはいらなくなったもの、譲ってもいいものを持ち寄る、出店料も予約もいらないフリーマーケット」です。神戸市灘区にある摩耶山掬星台という展望広場で2006年に始まり、現在も月1回のペースで継続しています。リュックひとつあれば誰でも参加できるという気軽さから、出会いやつながりを求めて、多くの人が集まるようになりました。


2010年には、神戸市長が掬星台に上がるためのケーブルカーとロープウェイの廃止を発表したのですが、リュックサックマーケットの企画運営に当たっていた慈憲一さんは、マーケットの参加者や地縁団体とともに「摩耶山再生の会」を組織して神戸市に働きかけ、存続の決定につなげています。



「1階づくりはまちづくり」という考えのもと、道路、公園、広場や建物の1階の活用に取り組む株式会社グランドレベルの田中元子さんは、自分で作った小さな屋台を路上や軒先、公園などに持ち出し、コーヒーを提供する取り組みを行っていました。


無料でコーヒーをふるまい、相手に話しかけていると、そこから自然に会話が始まります。個人のやりたいことを公共空間に持ち込むことで、人と人とのつながりを紡いでいくことができる、その小さな取り組みを彼女は「マイパブリック」と名付けました。多くの人たちがマイパブリックに取り組むことで、公共空間を魅力的なコミュニケーションの場に変えていくことができる、そんな可能性を彼女の取り組みから感じることができます。



大阪市北区中津・西田ビル敷地内の広場空間では、「ハイパー縁側」と名付けられた無料のトークイベントが毎週のように開催されています。広場は道路と歩道に面していて、たまたま通りかかった人が参加して話を聞いていくこともできます。スタートしたのは2019年12月で、すでに300回近く開催されています。 


ハイパー縁側を運営するのは東邦レオ株式会社の方々。もともとは屋上・壁面緑化や植栽管理などを手掛ける緑地管理の会社ですが、数年前からコミュニティづくりによるまちや地域の価値向上に力を入れています。


中津は大阪駅から北に1kmほどの場所にある、鉄道線路と道路と川に囲まれた小さなエリアですが、こうした取り組みを通じて住民や商店主や来街者の間で顔の見える関係が生まれてきています。ハイパー縁側の会場は行政の管理する空間ではありませんが、“公共的空間”での取り組みが中津地区でのコモンズ醸成に大事な役割を果たしていることは実感できます。



自分のやりたいこと、自分たちの楽しみを公共空間に持ち込むことができれば、そこからインフォーマルなつながりを生み出すことができます。集まってきた人たちは、そこで築かれた信頼関係をベースに、地域の課題についてともに考え、行動するようになります。そして自分たちの場所をより豊かにするために話し合い、行政と連携してルールを作っていくことにもつながるでしょう。公共空間は、そのような形で、地域におけるコモンズを生み出していくことのできる可能性を秘めています。


「これからの公共空間」を考える時には、「公(おおやけ)」の場所を「わたしたち」の場所へと開放していくという視点が大事です。どうしたらそこが心地よく楽しめる場所になるのかを一人ひとりが主亭的に考え、話し合い、行動することで、新しい公共空間の可能性が広がっていく。そんな場のデザインが、多くの現場で生まれ、実現していくことを望んでいます。


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