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2023年12月01日 by 前田 章雄

【歴史に学ぶエネルギー】5.アメリカの石油市場を独占した男

 

 「歴史に学ぶエネルギー」をシリーズで考えてみたいと思います。前回のコラムでは、アメリカで誕生したロックフェラーのスタンダード石油をみてきました。このスタンダードがアメリカの石油市場をほぼ独占するまでに成長し、世界市場に殴り込みをかけるようになります。

 

1)アメリカの大拡張時代

南北戦争が終結したころのアメリカは、どのような状況だったのでしょうか。日本でいえば明治時代にあたります。

イギリス発の産業革命がアメリカ国内でも広まって工業化が進むとともに、石油を用いた内燃機関も発明されます。フォードによる自動車の大量生産もはじまり、飛行機も飛ばされます。アメリカ経済は、大拡張の時代にはいっていました。

当然、石油の需要はますます拡大します。

 

スタンダード石油の単独オーナーとなったロックフェラーが、この機を逃すはずはありません。

彼は会社の利益と借りられる資金のすべてを石油精製に注ぎ込みます。リスクの大きな挑戦です。大胆な設備投資をおこない、生産性をさらに向上させていくのです。

当時は粗悪な質の生成油も多く出回っていましたが、ロックフェラーはそこを問題視します。硫黄成分が大量に混じっており、機械は故障し煤煙もひどく、売り物にならない原油もありました。ところがロックフェラーは、この油田を買収する提案をするのです。ほかの経営陣や社員から猛反対にあったものの、自らの個人資産を担保にするからと説得してその油田をすべて買収し、徹底的に精製することで品質をあげたのです。

彼が名づけた社名「スタンダード石油」には、自社が納入する製品の品質が市場におけるスタンダード(標準品質)を保証している、という意味が込められています。設立当初から、石油市場を我がものに掌握する意欲が満々であったというわけです。

 

スタンダード石油の一番の強みは、鉄道による低コスト輸送を実現したことにありました。

競争が激化した鉄道輸送では、強者が運賃割引やリベートなどの優遇処置を獲得していきます。さらには、前代未聞のドローバックまでおこなったのです。ドローバックとは、競争相手が鉄道会社に支払った運賃を鉄道会社から巻きあげることです。そうして安売り合戦で相手の力を削いでいくのです。

当時は、現代では信じられないような、卑劣といわれても仕方がない技を駆使することが当たり前の凄まじい弱肉強食の時代でした。着実に競合相手を蹴落とし、弱った相手の買収もおこないながら、アメリカ中の石油市場を牛耳っていくのです。

 

ロックフェラーが仕掛けた買収戦争が終わった時、スタンダード石油はアメリカの石油精製能力の90パーセントを支配していました。完全に一社独占の状態でした。やがてアメリカで得た巨額の利益をもとに、その触手を国外にまで伸ばしていきます。ヨーロッパへ安売り攻勢をかけはじめまたのです。

 

2)巨大企業スタンダード石油のその後

敬虔なクリスチャンの母親から厳しく育てられたロックフェラーは、「什一献金」の教えを忠実に守ります。什一献金とは日本ではなじみがない単語ですが、英語で「tithe」といって収入の10%を神に返すというキリスト教の教えのひとつです。

ロックフェラーは生活が苦しかった若いころも什一献金をおこなっており、アメリカのGDPの1%とまでいわれた資産をもつ大富豪になっても什一献金を続けています。

 

彼が建築したロックフェラーセンターは、ニューヨーク・マンハッタンにある超高層ビルを含む複合施設です。19もの商業ビル群の中心には、万国旗と黄金のプロメテウス像が立つ広場があります。冬にはアイススケートリンクになり、特大のクリスマスツリーが飾られることでも有名です。

ロックフェラーセンターの建築は、世界恐慌のまっただなかに始まりました。失業者が急増するなか、ロックフェラーセンターの建設は4万人以上に安定した職を提供してきました。

のちのバブル期に日本企業がこのビルのいくつかを買収した際、アメリカ黄金時代の象徴をバブルマネーで買い占めたことで、ジャパン・バッシングが激しくなったこともありました。

 

いくらロックフェラー自身が社会奉仕を信条としていても、民間企業が市場を独占してしまったことは、いびつな状況を生み出します。政治の世界でも献金が入り乱れ、スタンダードを意識した発言が飛び交うようになりました。アメリカ議会の上院が「独占者の、独占者による、独占者のための」特権クラブ化したとも揶揄され、問題視されます。

大きくなりすぎたスタンダード石油はのちに反トラスト法(日本でいう独占禁止法)によって34社に解体されます。しかし、分社化されたあとも裏で互いに協力し合う関係でいました。もちろん、表の世界では互いに競合し合う関係にありましたが、裏の世界では価格を取り決める闇カルテルを結び、有事には団結して自分たちの守りに固執したのです。

イタリアENIの会長エンリコ・マティは、かれら巨大メジャーたちを「セブン・シスターズ(7人の魔女)」と呼び、恐れるのです。当時の魔女たちの行動が現在にまで続く国際紛争のもととなり、未来をも左右する土台を形成することになるのですが、それを知る者はまだ世界のどこにもおりません。


 

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