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2024年04月05日 by 前田 章雄

【歴史に学ぶエネルギー】22.サウジアラビアで石油がでた!


「歴史に学ぶエネルギー」をシリーズで考えています。中東地域ではイランに続いてイラクでも石油が発見され、セブンシスターズがそのほとんどを支配します。ここで、ようやくサウジアラビアの石油が見つかることになります。

 

1)無謀からはじまったサウジの石油

当時、アラビア半島では石油はまったく出ず、地表にも一切の油徴すら見られませんでした。当然のごとく、セブンシスターズどころか中小の石油企業もサウジアラビアには見向きもしませんでした。

ここに、ひとりの男が登場します。ニュージーランド人のフランク・ホームズ少佐です。

石油で一発当てようと夢みた彼は、なんとサウジアラビアのイブン・サゥード国王から格安で利権を手に入れるのです。売買価格はわずか200ポンド。しかし、砂漠の豹とよばれたサゥード国王は飛びあがるほど喜んだと伝えられています。当時のサウジアラビアの国家財政は、今では想像もつかないほど極貧な状態だったのです。

 

サゥードの本名は、アブドゥルアジズ。アラビア半島の中央に位置するリヤドの豪族出身ですが、内紛によりクウェートに亡命していました。

アブドゥルアジズが20歳の時、わずか5人の勢力で奇襲をかけてリヤドを奪還します。それに対し、この地域にも派兵していたイギリスはかく乱を図るも、サゥードが総攻撃を決意するや戦わずして開城しました。そうしてサゥードがイエメンを除くアラビア半島を支配し、サウジアラビアの初代国王に就任することとなります。

サゥードは長身で、高く突きでた鼻と太い眉毛にたわわな顎鬚をもち、すべてのスケールが常人を抜きんでていました。有力部族との婚姻をすすめ、19人の妻と58人の子供をもつにいたります。国民の信頼も厚く、彼が国のすべてでした。

 

一方のホームズは石油の利権を転売しようと試みるのですが、どこからも買い手がつきません。

バハレーンには石油は存在しない、と誰からも固く信じられていたからです。ペルシャやメソポタミアと違って、サウジアラビア半島では地表になんら石油の兆候が見られませんでした。当時の常識では、サウジアラビアは砂漠とラクダしかない土地だったのです。

では、なぜホームズはサゥード国王から石油掘削の利権を買ったのでしょうか。

ホームズは、地質の専門家でもなんでもありません。しかし、いつの世も専門家たちの頑固な意見を崩していくのは、既成観念にとらわれない素人の冒険精神です。たまたまある機会に、バハレーン島の地質調査資料をホームズが目にしたことにはじまります。

 

地質学がそれほど進んでいないこの時代、インドの学者が記したさらに古い調査書がありました。誰も相手にしない類のものでしたが、ホームズはその資料のある一点にこだわります。

その資料は、石油埋蔵の必要条件である地層の背斜構造(キャップロック・ドーム)がバハレーンの地下深くに存在する可能性を示唆していたのです。

キャップロック・ドームとは、その名のとおり、帽子を伏せた形の岩のドームのようになっている地質構造のことです。

大昔のプランクトンなど生物の死骸の堆積物が、地下深くの圧力と温度によって変質します。それが石油や天然ガスです。これらは水よりも軽いため、地表にむかってじわじわと移動しますが、粘土質の地層があれば上昇がはばまれ、キャップロック・ドームの下に集まって溜まっていきます。

そこに穴を開ければ、地中の圧力によって石油や天然ガスが自噴してくるという原理です。

 

ただ、日本のような地震頻発国では、粘土層そのものに断層が走って割れているため、たとえ地中で石油が生成されていたとしても、その場に留まって貯まっている可能性は小さいです。北海道の勇払や新潟沖のように、数少ない場所でのみ石油や天然ガスが生産されています。

唯一、沖縄沖の海底に巨大油田がある可能性が指摘されていますが、中国が境界線ぎりぎりで掘削しているため、すでに吸いとられてしまっているかもしれません(経済性はないという指摘もあります)

 

2)サウジとクウェートで石油発見!

話をサウジアラビア半島へ戻しましょう。利権を買いとったホームズですが、あくまで転売目的でした。

実際に掘削するには、多額の資金が必要となります。しかも千三(せんみつ)といわれるギャンブルの世界です。昔の山師が簡易なボーリング装置で掘り当てていた時代とは違い、さらに地中深くキャップロック・ドームまで掘り進まなければなりません。石油メジャーでなければ、これほどの大きな冒険は不可能です。

結果、ガルフが5万ドルでこの権利を買い取りました。しかしガルフは赤線協定の一員であったため、サウジアラビア国内では自由に掘削することができません。そこで、利権をソーカルに売りわたすことにしました。ソーカルが掘削をはじめると、幸運なことに一号油井でいきなり石油が噴出したのです。

 

幸運をつかみ損なったガルフは、赤線協定外のクェートで掘削をはじめ、世界第二位のブルガン油田を発見します。クウェートとは砂漠の豹イブン・サゥードが亡命していた場所ですが、この地も石油は出るはずがないと考えられていた場所でした。

それまでのクウェートの主要産業とは、天然真珠の採取でした。当時、ダイヤモンドより高価だった天然真珠はバハレーン沖で多く採れており、クウェートからも多くの潜水夫が採取に出かけていました。潜水夫は、当時の憧れの職種でした。

その後、日本の御木本幸吉が真珠の養殖を成功させたのを機に、ペルシャ湾岸の天然真珠産業は衰退していきます。しかし、真珠産業が衰退していなければ、海底油田の掘削など絶対に許可しなかったはずです。「石油に浮かぶ国」とまで呼ばれるようになるクウェートですが、そこに日本が大いに関係していたとは、御木本幸吉も驚くことでしょう。

 

アクナキャリー協定とは世界市場を分けあっていたビッグスリーが結んだ秘密カルテルでしたが、石油価格が高く維持されたために、皮肉にも多くのメジャーを育てるきっかけになったのです。

 

 

このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。

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