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2011年02月02日 by 栗本 智代

大阪に望まれる、芸術・文化の常設小屋

 昨年の秋、8年ぶりに「平成中村座」が大阪にやってきました。

「平成中村座」とは……。昔、江戸で興行を許された芝居小屋に、中村座、市村座、森田座があり、江戸三座と呼ばれていました。その一つである「中村座」の代々座元を勤めていたのが、初代中村勘三郎で、その由緒から、8代目勘三郎が、昔ながらの芝居小屋を再現するかたちで、「平成の中村座」と銘打った仮説小屋での興行を願い、平成12年から、松竹の手により、移設できる芝居小屋を実現させてきたものです。

 浅草でこけら落としを行った「平成中村座」が、大阪の扇町公演にやってきたのは、平成14年の秋でした。大阪を舞台にした「夏祭浪花鑑」を上演した際、その幕切れが話題を呼びました。舞台の後方を開け放し、街の現実の景色を借景に役者が公園に走り去るという斬新なしかもリスクを伴う演出は、扇町での成功をもとに、東京、アメリカ、ヨーロッパでの公演でも新たな展開をみせ、大成功をおさめました。

 2度目の大阪公演の場所は、大阪城公園内。西ノ丸庭園内に仮説小屋を建て、舞台後方を開け放つと大阪城が見えるという立地です。昼の部、夜の部ともに、大阪城の景色を取り込む演出がなされ、他の地では味わえない、この仮設小屋ならではの趣向。特に11月夜の部の「夏祭浪花鑑」は、夜景の大阪城がクライマックスに姿を現し、客席総立ちで拍手が鳴り止みませんでした。

 平成中村座の大阪公演を訪ねて、地元はもちろん地方からも多くのファンが足を運んだと思われます。その道中が、大阪城の外堀や石垣、門、天守閣の眺めを楽しめる観光コースになっており、観劇の前後で、大阪城の中へ見学にいったお客さんも少なくなかったでしょう。地元では、あまり認識しなかった「大阪城」の歴史上の位置づけ、物語、価値なども改めて見直した大阪人も多かったに違いありません。芝居見物・芸術鑑賞に行くと、必ずその前後でお土産がついてくる、そういう小屋周辺のありようが望ましいです。

現在、大阪市内の劇場は非常に少なくなりました。江戸時代には、道頓堀を中心に大小の芝居小屋が軒を連ねており、戦後までも何とか続いていたのですが、近年、次々に姿を消してしまいました。道頓堀では、中座も浪花座も小屋としての姿を失い、松竹座が、外観のファサードを維持しながら、芝居興行を続けています。ただ、芝居街としての風情はほとんどなくなっています。もとは芝居小屋があった日本橋側にある一等地も、長い間空き地になっているので、非常にもったいないことです。小さな劇場や博物館など、文化情報発信基地にすれば、まちの趣や人の流れもきっと変わるに違いありません。

現在大阪市内では、梅田芸術劇場や新歌舞伎座など1000人以上を収容する大ホールはありますが、芸術が楽しめるような雰囲気があり収容人数が500人、300人クラスの中規模の劇場がほとんどありません。そんな中、上方落語の常設小屋としてオープンした、「天満・天神 繁昌亭」は連日大人気で、噺家や芸人を育てる場所としても喜ばれており、上方落語を支える場所になっています。2013年に竣工予定の、梅田キタヤードのナレッジキャピタルの中に、中規模劇場が計画されているので、大いに期待を寄せたいところです。

地元文化を発信し、他都市の文化を享受する場は、都市には不可欠なものです。大阪では民間主導になりがちですが、行政・自治体の方々こそ、都市文化・芸術の価値やポテンシャルをぜひ再認識し、現状に危機感を持ってほしいと思います。

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