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2011年05月18日 by 栗本 智代

人生の物語を紡いだまちへの想い

  映画「阪急電車」が公開されており、特に関西圏で話題を集めています。

原作は、有川浩著『阪急電車』(幻冬舎発行)という小説ですが、実は、単行本が書店に並んだ折にすぐに手に取り、普段はあまり映画館に足を運ばないのにこの映画は気になって早々に観に行きました。

物語の舞台は、阪急電車の支線である今津線、西宮北口駅から宝塚駅の間です。幼少から大学3回生まで「仁川駅」近くに住んでいた私にとって、その沿線は“思い出深い”というひと言では片付けられないほど影響を受けたエリアです。宝塚歌劇、学生街、厄神さん、進学塾などは数え切れないほど往復しました。沿線独特の文化や空気感が、私自身のカラダにも心にも染み込み、個性を育むための刺激剤となったことは間違いありません。

今は富山で過ごす中学の同級生も、この映画の話になると「昔住んでた門戸厄神駅が出たら、きっと泣いてしまう」とメールで話してくれました。最近、仕事で一緒に回っている若いカメラマンも「高校時代に彼女と待ち合わせした駅です。今住んでる人も通学した人もみんな絶対見に行くと思いますね」と、この映画を愉しみにしているようでした。阪神大震災の影響もあり、昔住んでいた社宅がなくなったり、新しいビルが建ったりと、まちの発展や再開発とともにさみしいところもありますが、沿線がもつ独特の空気感は今もそのまま残っています。映画では、フィクションながら、この沿線らしい生活感をにじませた人の営みや交わりを温かいまなざしで描いており、電車そのものだけでなく車窓や空からあらゆる角度で、物語の背景を空気感としても映しこんでいたのが、嬉しかったです。

しかし、地域によっては、昔の趣が全く失われてしまったまちもあります。歴史や文化の蓄積があればあるほど、またそこで暮らした思い出が多ければ多いほど、喪失感は大きいです。例えば、私の研究フィールドである大阪市内でも、昔の面影をほとんど失って殺伐としたエリアがあります。一方で、東北地方の震災を受けた方々につきましてはその被害の大きさに言葉もありません。さまざまな理由で悲惨な状況に陥った中でも、そのまちの自慢すべき物語や役割、プライドが忘れられることなく維持され、語り継がれ、豊穣な文化の蓄積を生かした新たな営みが芽生えれば、魅力あるまち文化も再生し、未来への希望も膨らむと信じています。

自分の人生の物語を紡いだまちには、生命の“根っこ”のようなものがあるのだと思います。離れなくてはならなくても、また同じ空の色、空気のにおい、ぬくもりや活気を感じたい、帰ってくるとほっとする心の故郷。それは理屈抜きで、人が生きていく大きな支えになります。まちとヒトとの幸せな相互依存関係が、あちこちで、少しずつでも確実に育っていってほしいと思います。

 

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