今から50年ほど前の昭和30年代、私の両親は家電製品の販売店を営んでいました。日本が「戦後」から脱却し、経済発展とともに家庭電化が急速に進んだ時代です。電気洗濯機や電気炊飯器など主婦の家事労働を軽減する製品は大いに歓迎され、素人が始めた商売ながらよく売れました。家電メーカーのCMソングには、電化による家庭の幸福と明るい未来が込められていました。
当時は冷蔵庫、アイロンなどにも「電気」が冠され、電気を使わない器具があったことを示していました。当時、夏の暑さをしのぐには家庭でもオフィスでも扇風機が活躍していました。冷房はデパートや先端的オフィスに限られ、電力需要が夏の昼間に最大となる現代とは事情が全く異なっていました。そして今日、地球温暖化や放射能汚染、そしてピーク時の電力不足という形で、行き過ぎた電化の「ツケ」がまわってきました。ちなみに、近年の1世帯当たりの家庭用電力消費量は当時の約5倍、1人当たりでは8倍にも増えています。
当時の暮らし方から今を見れば、現代人の多くは「スイッチ一つで何でも解決する、それが進歩」と錯覚しているのではないでしょうか。暗ければ照明、暑ければ冷房、臭ければ換気扇、という思考回路と体の反応です。
さて、今回の提案を標語的に言えば「ちょっと待て、電気のスイッチ入れるのを」です。昼間、新聞を読むのに部屋が暗ければ、窓際の明るい場所に自分が移動すれば済みます。室内が暑いと感じたからと言ってすぐエアコンのリモコンに手を伸ばすのでなく、窓を開け着衣を軽くすることが先でしょう。部屋の掃除には電気掃除機が不可欠、という思い込みも困ったものです。わが家で30年以上使われているコーヒーミル(写真)は、電動でなくても十分な機能を示す一例にすぎません。
同様に問題なのがスイッチの入れっぱなし。電気湯沸かしポットの常用と保温、炊飯器の保温、暑い季節にも洗浄便座の温水が常時ON、誰もいない部屋に照明が付いたまま、などの事例が思い浮かびます。電子レンジやテレビなど待機電力を消費する器具は、電源を元から切ってはどうでしょうか。わが家ではガス給湯暖房機の主電源にもスイッチを設けて、使わない時はOFFにしています。
ある家電製品の便利さに慣れてしまうと、使わないで済ませるには抵抗があるかもしれません。しかし、本当に明るい未来を取り戻すには「それが必要なのか、他に方法はないのか」をよく考えてみる必要があります。言わば「便利さ総見直し」の時代に我々は生きているのです。