夏を過ごすのに、「日射病」はもちろん「熱中症」への対策が不可欠だと、あちこちで叫ばれています。一方で、「冷房病」というのは、最近あまり耳にしなくなりました。冷房がよく聞いた部屋に長時間いた後、外気温にさらされることを繰り返した時、自律神経が機能不良となり、疲労感、だるさ、頭痛等々の症状が出ることを、一般に冷房病と呼んでいます。毎年8月の盆あけ頃から「“夏ばて”で、何だかしんどくてねえ」という会話をあちこちで聞きますが、その“夏ばて”には、冷房病も含まれているのではないかと思います。
この冷房病予備群である私は、ちまたでクールビズへの取り組みがはじまり、あちこちの建物や施設で、空調の設定温度を上げるという宣言を聞くたび、「今年こそは、寒い思いをしなくてもいい」と期待を胸に盛夏を迎えてきました。しかし裏切られてばかりです。昨年の夏、やっと百貨店で寒いという感覚がなくなり取り組みを実感できましたが、ホテル、映画館、常設の劇場などは、たいてい必要以上の冷房が効いており、上着やスカーフが必需品でした。仕事でも、大規模なシンポジウムの会場で、2時間、3時間と熱い議論が続く中、冷え切った聴衆席に最後まで座っていて風邪をひいてしまったこともあります。
一般に、高級レストランでの食事や観劇の際、特に女性はおしゃれをして出かけるのが楽しみではないでしょうか。夏などは、涼しげなノースリーブーやワンピースも「場」に似合います。肩や背中を出したドレスがふさわしいレセプションの機会もあるかもしれません。しかし、そんな非日常な場所ほど空調が効きすぎていることが多く、女性は夏らしいおしゃれを楽しむため“寒さを我慢”するか、防寒の工夫を欠かさずするか、頭から薄着はやめるかを無意識に選択しているのではないでしょうか。そうでなくても、気付かぬうちに冷房病になっている人も少なくないと思います。
たまたま、昨年の8月、東京の大劇場で芝居を見る機会がありました。心配していた冷房はあまり効いておらず、扇子を仰いで観劇している人が目立ちました。が文句を言っている人はあまりいません。東京の方が節電意識は進んでいるのでしょう。さらに、とある役者の談話で、“劇場の冷房があまり効いていないとき、逆に役者の汗が飛び散って迫力が出るし、名場面になるとお客様の扇子がぴたりと止まって見入ってくれているのがわかるから面白い“とあり、そういう逆のとらえ方があったかと感心したことを覚えています。
「お客様に、不快な思いをしていただきたくない。暑い夏は涼んでいただきたい」というのが、冷房を強める施設側のお客様サービスの理論でしょう。“不快かどうか”というのは、誰を基準に判断されているのでしょう。クールビズとはいえ、襟のついたシャツと長いスラックスを身に着けている男性が基準になっていないでしょうか。ぜひ女性や高齢者の肌感覚と、浸透しつつあるエコ意識を反映していただき、節電が不可欠なこの夏こそ、適切な空調管理を、各施設の方々にお願いしたいです。