暑さに対する反応にはかなりの個人差があります。一般的に太っている人は暑がりで、痩せている人は比較的平気です。それは、静かにしている状態の体の発熱量がほぼ体重に比例しますが、太った体は体重当たりの表面積が小さく放熱の効率が低いことで説明されます。一方、痩せた体は、それと逆の傾向にあります。まずは、過剰な体重を減らすことが、健康維持のみならず、暑さ対策にも有効です。
次に汗腺の働きが関係します。我々の体は外気温が変化しても体温を一定に保つ機能を備えており、その一つが発汗作用です。汗をかくことで水分を蒸散させ奪われる気化熱で体温を下げます。体表面にある汗腺の数は四、五百万とも。しかし実際に働いてくれる「能動汗腺」はその半分程度で、その数は3歳ころまでの生活環境によって決まるのだそうです。幼い子供への親心で「気持ちよく寝かせたい、アセモが出来ないように」と空調した環境で大事にしすぎると、汗腺が十分発達せず、成長してからも体温調整がうまく出来なくなります。最近多発する熱中症の原因の一つが、このような育児にあると私は信じています。この大事な期間、幼児にはもっと汗をかかせ、暑さに強い体づくりに配慮すべきなのです。
「もう手遅れ」の声が聞こえそうですが、諦めるのはまだ早い。手持ちの汗腺の機能を向上させる手が残っています。それにはまず体をよく動かし、スポーツなど汗をかく習慣を日常生活に組み込むこと。そして出来るだけ体を暑さに慣らすことです。少々の暑さにはエアコンを使わず、うちわや扇風機の風で体温調節すれば、おのずと発汗作用が促されるでしょう。気軽にエアコンをかけると、空調されていない空間に出た時の不快感は、エアコンを使わない時より大きいものです。「エアコン依存症」とでも名付けたい習慣から脱却することが、夏の省エネと健康増進の近道です。
人間はより便利に快適に、と住環境を改善してきました。その行き過ぎがわが身を危うくしています。欲求充足を追い求めずに、今こそ自然環境の中で生きる意味をよく考える時です。雨ニモマケズ 風ニモマケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ 丈夫ナカラダヲモチ ・・。東日本大震災以来、宮澤賢治のこの詩が広い共感を呼んでいます。彼の故郷を含む広い地域を襲った大惨事に比べれば、「暑い」など大したことはないはず。「甘ったれるな日本」の精神で強く謙虚に生きたいものです。