人気アニメ『名探偵コナン』の有名な決め台詞に、「真実はいつもひとつ」というのがあります。といっても、実は番組自体を見たことはなく、番組のCMで知っているだけなのですが。しかし、コナンの言うように、真実はいつもひとつなのでしょうか。
黒澤明監督の映画『羅生門』(1950年)をご存知でしょうか。芥川龍之介の短編小説『藪の中』をモチーフにした作品です。女性が山賊に乱暴され、夫の侍は殺されます。捕まった山賊、侍の妻である女性、巫女に呼び出された侍の霊の証言(回想)が、三者三様で異なります。
「真実はいつもひとつ」というのは、近代科学の考え方です。しかし、自然科学でも、20世紀になって量子力学が登場し、不確定性原理が認められるようになりました。粒子の存在は絶対ではなく、確率的にしか特定できないことが明らかとなっています。20世紀後半に入り、社会心理学や社会学などにおいても、現実は社会的に言語によって構成されるとする社会構成(構築)主義が登場し、有力となっています。
漫画の世界では「真実はいつもひとつ」がわかりやすくていいでしょう。しかし、わたしたちの生きている世界は、見る者によって異なる現実から成り立っています。こうした羅生門的現実の存在こそが「いつもひとつの真実」といえるのではないでしょうか。