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2013年01月18日 by 弘本 由香里

寒中に咲く梅花に変わらぬ人の心を訪ねる

 「高砂や、この浦舟に帆をあげて、…」と、祝言で名高い能・謡曲「高砂」に、次のような一節が出てきます。
 「…松根に倚って腰を摩れば、千年の翠、手に満てり。梅花を折って頭に挿せば、二月の雪、衣に落つ。…」
 高砂の浦から、帆を上げて海へ出た舟は、淡路や鳴尾の沖を過ぎて、やがて住の江に到着するのですが、そこに、住吉明神が現われます。雪の残る早春の岸辺で、常盤の緑したたる松の木に寄りかかり、また梅の花を手折り、舞を舞いはじめる情景が清らかに神々しく描写されています。
 寒中に凛として春を呼ぶように開花する梅の花は、古来日本の風土のなかで寿福の象徴として愛でられてきました。なかでも、大阪と梅は深い縁で結ばれています。
 「難波津に咲くやこの花冬ごもり 今は春べと咲くやこの花」という歌をご存知の方も多いでしょう。『古今和歌集』仮名序に添えられた一首です。厳しい冬を耐えて、咲き誇る梅の花の気高い姿に、苦難を乗り越えて即位した仁徳天皇の姿を重ねた歌と語り伝えられ、数多ある歌の中でも最も大切な歌とされてきたものです。そして、難波津で「この花」といえば、いうまでもなく梅の花のことだとされているのです。
 難波津のこの花こと梅の花は、春の四天王寺を舞台にした能・謡曲「弱法師」でも物語に欠かせない情景として描かれています。間垣の梅の花の香に、盲目の身となった主人公・弱法師(よろぼし)が心を躍らせ、散りかかる花びらを袖に受け、花もまた仏法のさまざまな施しのひとつだと喜び、うっとりと花に戯れ、やがて四天王寺の縁起を語り始めます。貴賎を問わず、普く民人の願いを包み込む、難波の春の美しさが、梅の花に象徴されているのです。
 1月20日の大寒から、23日の節分、24日の立春へ、一年で最も厳しい寒さを迎える時期です。けれども、この寒さの中で生き物たちの春への準備は着々と進んでいます。寒中に花開く梅花に励まされる人の心は、今も昔も変わらぬものでしょう。
 春に先駆け、「高砂」ゆかりの住吉、仁徳天皇ゆかりの「高津宮」や「御幸森天神宮」、「弱法師」ゆかりの四天王寺をはじめ、大阪と梅の深い縁を紐解きながら、たずね歩いてみるのもいいかもしれません。梅花の気高さに触れ、古人を思い、願わくは厳しい時代を乗り越えていく、心を耕していきたいものです。
 ※写真は「弱法師」の謡本から

 

 

 

 

 

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