谷崎潤一郎と関西
大阪出身の代表的作家といえば、ノーベル賞を受賞した川端康成がいます。天満に生まれますが、高校・大学と東京の学校を出て、以降、東京や鎌倉に定住します。その逆のような行動をしたのが、谷崎潤一郎です。関東大震災にあい、東京を離れて関西に逃れてきます。特に船場には、自分が育った東京の下町にはない、由緒ある経済的にも富裕な生活の上に築かれた、女の世界があることを知り、憧れ、関西に住み着きました。
大阪には、織田作之助、武田麟太郎など、大衆的な小説作家、また、ビジネス街としての大阪を描く山崎豊子をはじめとする作家などの流れがありましたが、谷崎は、それらと一線を画し、独自の純文学を結晶させ、大阪の文学の担い手の第一人者の一人として高い評価を受けます。
作品としては、『春琴抄』『細雪』が有名で、船場や阪神間を舞台にした美しい女性の描写が印象的だと感じる人もいるでしょう。しかし一方で、『痴人の愛』に代表される、マゾヒズムがテーマとなる作品も多く、いずれも谷崎自身の私生活が見事に反映されたものでした。そのドラマチックな、ある意味エゴイステイックな生き様は、作品とともに、関西の文化や風土に大きな影響を受けていた、ということは意外と知られていません。
中でも谷崎の三人目の妻である松子は、谷崎にとって、船場の老舗がもつ最高級の古き良き美しき文化そのものとして映り、人生を大きく変える存在でした。特に、松子を取り巻く生活文化は、谷崎の作品に巧みに生かされています。松子をモデルとした『春琴抄』の舞台は、当時、船場でもっとも格が高いとされていた道修町に設定しており、また松子姉妹をモデルにした『細雪』は、阪神間に流れる住吉川西岸の反高林で暮らした家を舞台にしています。これは後に「倚松庵」と名づけられ、現在は移転保存され、神戸市東灘区住吉東町1丁目6番50号で、週末のみ、無料で見学ができます。晩年は、京都の南禅寺の周辺を好んで住み、「源氏物語」の新訳を現代仮名遣いで完成しています。松子を妻とするまでの、谷崎の女性遍歴も、なかなか興味深いものがあります。
あまりに人間的で、文学者として類稀な才能に恵まれていた谷崎潤一郎ですが、彼自身の人となりや言動については十分に知られていないため、私たち関西人は、谷崎にあまり親近感を持たないのかもしれません。もったいないことです。
そこで、これはぜひ、私が展開している「平成♪なにわの語りべ劇場」で紹介しようと考えました。現在、作家のわかぎゑふさんと一緒に、台本を制作中です。ご興味のある方は、ぜひお越しくださいませ。
「平成♪なにわの語りべ劇場2013早春inブリーゼ」
日時:平成25年3月5日(火) 午後18時半開演
場所:サンケイホールブリーゼ大ホール
演目: 第一部 通天閣ものがたり
第二部 谷崎潤一郎
――愛と創作のジャンクション
入場料:1000円
(問いあわせは産経新聞社ウエーブ産経推進本部
06−6633−9087まで)