台風が日本列島に近づくほどに勢力を増し、これまでに例のない豪雨が頻発しているこのごろ。身近な地形の中に潜んでいるリスクを知っているか知っていないかで、身の安全が大きく左右されます。道路や鉄道や河川や下水などのインフラ整備が進み、地形を感知することも難しいほどにビルに覆われている都市で暮らしていると、いつのまにか無防備な怖いもの知らずになってしまいがちです。
そもそも私たちが暮らすまちがどのような原型をしていて、どのような環境特性を持ち、どのように開発されていったのか、その歴史を知ることが、いのちを守りまちの営みを持続させていくためのリテラシーの基本になるのではないでしょうか。
大阪のまちの原点は、都心部を南北に貫いている高台・上町台地にあります。このたび、上町台地をフィールドにした、地域コミュニケーションデザインに関する研究活動の一環で、「上町台地 今昔タイムズ」という小さな壁新聞を発行することになりました。
上町台地には、古代から今日まで、絶えることなく人々の暮らしの跡が刻まれています。天災や政変や戦災も、著しい都市化も経験してきた土地です。時をさかのぼってみると、まちと暮らしの骨格が鮮やかに浮かびあがってきます。自然の恵みとリスクのとらえ方、人とまちの交わり方、次世代への伝え方…。「今昔タイムズ」を媒介に、コミュニケーションの幅が広がり、過去と現在を行き来しながら、未来の安心・安全を考えるきっかけになっていけばと願っています。
第1号では「鉄道史から垣間見える、近現代・大阪の都市拡大」を取り上げています。明治時代、大正時代、昭和30年代、現在と、4つの時代の地図を見ながら、鉄道網の広がりとともに果てしなく拡張していった市街地の様子をざっと追いかけています。同時に、地域の方々に、昔の車窓風景の思い出を語っていただいています。昭和40年代半ば頃まで、郊外に広がっていた田園風景を多くの方々が記憶されていることがわかります。
日本社会は拡大の時代から縮小の時代に入っています。100年かけて増えてきた人口は、徐々に100年前の水準に戻っていきます。だからといって、明治時代のコンパクトな都市に戻るのは容易なことではありません。人口も高齢化しています。ならばどうするか…。いのちを守っていくための、まちづくりのリテラシーが問われていることを、「今昔タイムズ」がしみじみと語りかけてくるのです。
※図は「上町台地 今昔タイムズ」1号(1面)