第96回全国高校野球選手権大会(夏の甲子園大会)が開幕しました。阪神甲子園球場界隈は、猛暑もなんのその、全国から地区予選で勝ち抜いてきた高校野球児とその応援団で埋め尽くされ、さらに熱気を増しています。今年の夏は、どんなドラマが誕生するのでしょう。
今や「甲子園」が、高校野球の代名詞になっていますが、その第一回は、大正4年、大阪の豊中運動場で、「全国中等学校優勝野球大会」という名前で開催されています。出場校は10校でした。その後、大正6年に、第3回として、はじめて兵庫県の西宮で開催されます。場所は、現在の甲子園のすぐ東側にある鳴尾村、なんと競馬場の中でした。この鳴尾グラウンドの収容人数は5000人。年々野球熱が盛り上がり、大正12年、8月に行われた第9回の大会の準決勝で、地元の甲陽VS立命館戦で、詰めかけた観客がとうとうグラウンドになだれこんで、試合が一時中断されたといいます。
実はこの時、同時進行で行われていたのが、武庫川の改修工事です。現在尼崎市と西宮市の間を流れている一級河川ですが、昔は暴れ川として周辺住民を悩ませており、支流の申川と枝川を廃川にして、本流が本格的に整備されていました。その支流の廃川敷地を買い取ったのが阪神電気鉄道株式会社でした。そして、電車の線路から南側をスポーツ娯楽エリアとするまちづくり戦略が立ち上がり、その中心となったのが、鳴尾グラウンドに代わる、大規模な球場施設の建設でした。もともとは、川の堤には松林が茂り、“狐狸の里”と呼ばれるほど、さみしい場所でしたので、かなり大胆な、社運を賭けた事業だったといえるでしょう。
新たな施設は、収容人数約5万人という計画。建設にかかわる人は誰もこんな巨大な球場で試合をしたことがない、という試行錯誤の連続の中、アメリカのスタジアムの図面だけを頼りに、大正13年8月1日、完成の日を迎えました。特に、こだわったものの一つが「土」だといいます。水はけがよく、イレギュラー・バウンドをしない土。阪神間は元来“白砂青松”の地ですが、白い土は、まぶしくて適さないとして、苦心の結果、神戸の熊内(くもち)の黒土と、淡路の赤土を混ぜて、最適な粘り具合を慎重に確認してから、グランドにしきつめられたといいます。
「甲子園」というのは、大正13年の干支「甲子=キノエ・ネ」にちなんで命名されたというのは有名ですね。十干の先頭(甲=キノエ)と、十二支の先頭(子=ネ)がそろうのは60年に1度で、縁起がよいとされたのです。そして、完成直後、第10回夏の大会が無事、開幕となったのでした。
甲子園球場は、平成19年から平成22年までのリニューアル工事を終え、今年の8月1日、開場90周年を迎えました。伝統の「土」はもちろん健在。外周に再植樹された「ツタ」も順調にツルを伸ばしています。高校野球選手権開催中は、外野は入場フリーですし、平常はガイドによる解説を聞きながら見学できる“スタジアムツアー”も行われています。夏休み、高校野球の応援に、あるいは社会見学を兼ねて、アニバーサリーを迎えた甲子園球場にぜひ足を運んでみてください。