巨大なベルトコンベアの高架が林立し、山から切り出された土砂が続々と海辺の平地に運ばれていきます。そこは2011年3月11日まで、陸前高田市の中心市街地が広がっていたエリア。気仙川の河口、唐桑半島と広田半島の間に豊かな広田湾を擁する、三陸のリアス式海岸のなかでは最大級の平野です。しかし、中心市街地は美しい高田松原もろともに、津波にさらわれてしまいました。時を重ねてきたまちの風景がまるごとなくなり、失われたまちの上に、かつてない規模の盛り土が施されていきます。盛り土工事が終わるまでに、まだ数年を要するといいます。人口減少や高齢化はその間にも容赦なく進んでいきます。その先にどんなまちがつくられていくのか、にわかに想像もつかず、言葉を失ってしまいそうな光景です。
しかし、象徴的な風景にだけに目を奪われていてはいけないという、知人の言葉にはっとしました。平地の風景だけが陸前高田ではなく、視野を広げれば、山と海に囲まれたなかにさまざまな集落があり、そこでの人々の暮らし・生業の再生をしっかり見つめなければならないというのです。
その一つ、広田湾を望む箱根山に、この秋「箱根山テラス」という新しい宿泊・滞在施設が誕生しました。地元で建設業と木質バイオマスによる地域熱供給に取り組む若き経営者が、仲間たちとともに立ち上げた新たな事業です。コンセプトは、次のように語られています。「将来世代を含み 健やかに生きてゆける状況をつくり出すために 地域の木質資源をいかし エネルギーも経済も 地域内で循環する暮らしの実現に わたしたちは、宿泊・滞在施設を通じて取り組んでいます そして 地域に住む人たちや 外から訪れる人たちが、ともにすごす時間を このテラスで重ねてゆきます」。コモンスペースに設けられたペレットストーブに迎えられ、山の静けさの中で眠りにつき、朝日で目を覚まし、テラスで思い思いに、森の木々越しに南三陸の海を眺めながら朝食を楽しみます。五感がみるみる蘇っていくような時空間が、3.11を経て生まれてきたことに感動を覚えました。
平地で被災した方々の高台移転の住宅再建も徐々に進んでいます。山と海を一体とした暮らしと生業を創造していくことこそ、復興まちづくりの真のテーマだということ、山と海をつなぐ生活軸を共有のものとしていけるかどうかが、まちの持続可能性につながっていくこと。久しぶりの陸前高田への旅は、大きな視野を得ることのできる旅となりました。
※写真は陸前高田市の「箱根山テラス」からの眺め