「青森の冬に、ないものがある。冬の青森の家にお父さんがいない」と青森県知事が話をされた。「青森の冬は雪が多く、農業ができない。仕事を求めて出稼ぎに行くため、青森の家にはお父さんがいない。冬の青森で農業ができないものだろうか?大阪ガスさん、知恵をいただけませんか?」と。
青森県津軽。りんごを収穫すると、雪が降る。豪雪地帯、低気温、日照時間は短く、農作物の栽培には適さない。青森の津軽で、冬季のトマトのハウス栽培づくりにチャレンジした。その地域の気象条件を勘案して、適切な温度・照度・CO2の環境条件が農作物には必要。ガスエンジンで電気と熱を同時(co)に発生(generate)させる省エネルギーシステムとして、工場や業務用、家庭向けにコージェネレーションシステムとしておすすめしてきた。
このコージェネレーションの電気と熱をつくり出す機能に、燃焼ガスよりCO2を取り出し、電気・熱・CO2を作り出す「トリジェネレーションシステム」を開発した。
このトリジェネレーションシステムは、農業国であるオランダで約40年前より温室栽培(日本とちがい大規模温室(20h規模もあり)が多く、エネルギー会社が大型温室に設置し、発電した電気は自らの電力ネットワークに流し、発電時に伴って発生する熱とCO2は温室オーナーに安価に提供していた。オランダでは20年前に電力ビジネスの規制緩和が進み電力自由化がはじまったこと、農作物へのCO2施用と人工照明による生産性向上・収益改善が確立することなどから、温室オーナーである農業経営者自らがトリジェネレーションを温室に設置し、余剰電力をエネルギー会社に販売するという農業市場でのエネルギーモデルが20年前に誕生し、オランダでの農業革命が起こった。
「青森ではもともと養鶏もできなかった」と、青森県南津軽郡「常盤村養鶏農業協同組合」の石澤さん。「様々なチャレンジで養鶏をおこなうことができ、今では毎日東京に卵を届けることができるようになった。大雪の降る津軽で冬の農業づくりにチャレンジしたい。青森の冬で農業という仕事を生み出したい」と。
青森県藤崎町と弘前大学との協力のもと、常盤村養鶏農業協同組合さまと大阪ガスのトリジェネレーションによる冬のトマト栽培実験を平成18〜19年に実施。豪雪地帯の青森県南津軽で冬季における26℃の室温設定と、時間帯別にCO2濃度を変えつつ温室への施用、さらに日照状況に応じて補光を変えて栽培を行ない、冬の青森でのトマト栽培に成功。平均よりも多く数量ができたのに加え、糖度の高い高品質なトマトを生産でき、青森県産「冬のエコ・とまと」ブランドとして販売。青森の冬のトマトは「熊本産」が中心であったところに「青森産」トマトが出現し、店頭に並べると短時間に完売した。
青森の冬にトマトを作ることができた。エネルギーシステムで、地域の課題を解決できた。
その青森で新たな農業のあり方を切り拓いたエネルギーシステムが、京都大学農学研究科付属農場(木津農場)で、さらにバージョンアップして動き出そうとしている。
木津農場では、バラとイチゴの研究栽培用としてトリジエネレーションを設置し、電気・熱・CO2施用により光合成を促し作物を成長促進するとともにCO2の固定化を目指し、日本初の研究が開始される。作物ごとに最適な室内環境をどう作っていけばいいのかを研究する実験ファームである。青森での試行から10年。青森実験を踏まえ、京都大学とエネルギーシステム検討を始めて4年。農業エネルギーシステムを盛りこんだ実験ファームが誕生した。
さらに、もうひとつ凄い機能が盛りこまれている。地震などの有事がおこり停電することがあった場合、京都大学農学研究科の財産でもある「試料保存室」等の重要負荷に対してトリジェネでつくった電気が停電時に給電されるというレジリエントな仕組みが導入されている。「種」は未来の人たちに繋いでいく大切なもの、その重要なものを守らせていただいていることに、エネルギーソリューション会社として責任を感じる。
日本で最先端のエネルギーシステムが日本の農業、地域創生の文脈で、各地域で進められようとする地産地消のビジネスモデル構築に向けて農業への関心が高まるなか、京都大学木津農場の実験ファームが大いに貢献するものと期待される。
(エネルギー・文化研究所 所長 池永寛明)
〔CELフェイスブック 9月21日掲載分〕