“観光について考える”をテーマに、大阪グランフロント・ナレッジサロンで「わいがやサロン」が開催され、池永より問題提起をさせていただいた。
観光を考えるうえで忘れられない言葉。「世界でいちばん住みよいまち」のオーストラリアのメルボルン市を訪ねたときの市幹部の次の言葉。
「メルボルンには、オペラハウスや大阪城のような『アイコン』がない。しかしメルボルンには『本質』がある。まち全体でメルボルンを感じてもらうため品質をアップデートしつづけている」
“Place for people”を目指してメルボルンは都市を変革して、学生を集め、観光客を増やし、移民・永住者を増やした。街全体でメルボルンを感じてもらうこと、住みたいと思う街をつくることが最大の観光戦略だ。メルボルンは明確に自分自身の都市のライバル都市とその戦略をベンチマークし、たとえば大阪や神戸を学びつくし、世界でいちばん住みたい街を目指してきた。
観光とはプロモーションや宿泊、多言語対応、免税対応、接客だけではない。旅行会社、交通機関、ホテル、旅行、民泊、飲食店、商店、百貨店だけのものではない。観光とは、都市にかかわる人たち全員で、自らの都市そのものすべてを、外から来る人たちに見ていただき、体験していただき、交流して、都市を感じてもらうこと。そのためには、まず自らが自らのまちを知らなければならない。大阪とは、上方とは、近畿とはいったいどういう「場」なのか?外から訪ねて来たいと思う「場」なのか?内にいる人にとって魅力的な「場」なのか?
つまり観光とは都市のマーケティングそのもの。そのために、都市を売り込むための大阪、上方、近畿の「本質」とはいったいなんだろうか。江戸時代、大坂は「天下の台所」と呼ばれた。水路・陸路の結節点である大坂を核とした「トランスミッション」を活用し、乗り替え、積み替え、換金、両替という物の交易、知と知、情報と情報の交換、人の交流にて儲ける仕組みをつくりあげ「天下の台所」となった。
つまり上方の本質はトランスミッション。上方の持つネットワーク(交通・物流・人流)と、たまり性を通じて、交流・影響を与えあい、新たな方法・価値を創造した。江戸時代には上方に行けばなにかある、何かから新たなものに変換できるという「自由な土壌」と「価値変換・価値創造システム」を求めて人々が集まった。
このトランスミッションは江戸や明治・大正・昭和時代だけの強みではない。現代の上方・近畿の観光においても発揮されている。関西空港に着き、大阪・京都・滋賀・兵庫・奈良・和歌山へとゴールデンルートを訪日外国人は行動している。アジアと近畿との距離、地理歴史的な「場」の強みが外国人を引き寄せている
観光を考えるということは、その場が本来もっていた歴史、本質を掘りおこし、都市・地域のありたい未来を見据えた都市・地域をルネッセ(再起動)する総合戦略づくりではないだろうかとお話した。
(エネルギー・文化研究所 所長 池永寛明)
〔CELフェイスブック 3月6日掲載分〕