「マーケティング」という言葉が誤解されている。たとえばある地域創生をテーマとしたシンポジウム。自治体の幹部が各自治体での地域創生に関するプレゼンテーションと、パネルディスカッションをおこなっていた。そのシンポジウムで伝家の宝刀のように「マーケティング」という言葉が何度もでてくる。それはそのシンポジウムだけでなく、自治体の委員会やまちづくり系の会合での議論で、最近よく出る。
しかしそこで使われている「マーケティング」とは、「セールス」や「プロモーション」のことをいっているケースが多い。マーケティングの基本モデル「3C-4P」の4つのPのうち1つの「P(プロモーション)」だけで地域振興・地域創生・観光戦略を捉えられている。手段、方法論に短絡的に結びつけようとする。だから、その地域創生策は全国どこでも通用するプロモーションとなる。瞬間風速はでるが、持続性はなく、すぐ風は吹きやむ。なぜなのか?それは目指すべき出口なりゴールが描かれていないから。地域のお客さまである市民の気持ちや考え方を掘りおこされていない、つかめていない。議論が主人公たる市民から出発していない。
地域創生なり地域活性化は、「プロモーション」だけで実現するわけではない。市民が「どんなまち」ならば、「別のまち」ではなく、「そのまち」に住みつづけようと思うのか、「別の地域の市民」がそのまちを訪ね、住みたいという地域にしていけるかが大切である。市民にとって住みたいというあるべき地域での生活像を考え、その地域での生活像にたどりつくための時間軸を踏まえたプラン(5W1H)をつくり、それを試行錯誤しながら順次実行していくことがマーケティングだ。
マーケティングの目的は売る(セールス)ことではなく、売れる仕組みをつくることである。自治体でいえば市民に「快適で、素敵で、安全で安心な」まちをつくりあげることであり、大学でいえば「これからの社会を生き抜き、社会に価値を創造していける」人材を育てることである。
しかしながら世の中には供給者・売り手側の発想にたつ人が多い。たとえば「売り場」という言葉がある。これこそ、供給者側・売ろうとする人の視点。本来、お客さま視点にたてば、お客さまにとっての「買い場」である。お客さまから見て買いたいというものをどうつくれるかである。
営業現場もそう。よくモノを売るといわれる人が必ずしも雄弁ではない。どちらかといえば物静かでお客さまの話をじっくりと聴くタイプの方が多い。自らの商品を一方的に喋って売るのではなく、お客さまの話を聴き、お客さまのことを理解して、お客さまからみた「お客さまに役立つ商品」へと翻訳、意味を転換して、お勧めするからこそ、お客さまは納得してその人から買うのだ。つまり、お客さまは納得してその人から買うのだ。お客さまのことを理解するために「聴く(アクティブ・リスニング)」ことができるのかどうかだ。ちなみに「聴く=listen to(耳を傾ける)」、「聞く=hear(音として入ってくる)」である。漢字どおりである、漢字には意味がある。
現場においてはマーケティングが誤解されている。「マーケティング=セールス」「マーケティング=イベント、PR、SNS」と狭義でとられがちだが、大切なのは、「お客さまを理解する」こと、お客さまの立場から見た「お客さまにとって必要で、役立つという商品」に翻訳し直して提案できるかだ。
(エネルギー・文化研究所 所長 池永寛明)
〔CELフェイスブック 4月14日掲載分〕