昔は火事が多かった。木と紙と粘土の日本の家と、高密度の都市構造であった京都も、大阪も何度も何度もまちが焼けた。住宅のつくりだけでなく、家のなかで薪で火を使うという住まい方であったため、火事になる確率が高かった。かつては囲炉裏と竈(かまど)があった。かまどのことを京都ではおくどさん、大坂ではへっついといったが、地域によって食文化が違うように、調理システムの名前が異なる。
日本ではガスを使った厨房用器具がいろいろつくられた。ガス事業が始まった明治・大正時代は海外からガス器具を輸入していたが、料理も調理プロセスも西洋と日本とでは違うので、不調和なこともあった。
そこで日本の料理にあった調理方法にあった七輪、すき焼きコンロ、ガスかまどなど日本的な調理器具がデザインされ、開発された。このように日本の暮らしのなかでの課題を解決しつつ、利便性の追求、高機能化をすすめてきた。
ここで「デザイン」という言葉をつかったが、「デザイン」という言葉が世の中に氾濫している。語源は「計画を記号に表す」ことである。設計や意匠のことを指していたが、最近海外や先端的企業では「ある問題を解決するために思考・概念を組み立て、それを様々な媒体に応じて表現すること」という本来の意味で使われだしている。つまり、デザインとは、モノのデザインから、体験・サービス・ビジネスを「意思をもってつくりだすこと」「モノやコトを複合的につくりだすこと」へと進化している。このように世の中にないものを、他者とコミュニケーションをとりながら、つくりながら考えるというプロセスとしてデザイン思考が広がりつつある。
よりよい社会づくり、よりよい暮らしづくりのために日本の料理の調理システムに合致したガス機器づくりに取り組んできた。
当初「炊飯器で炊いたらガス臭いのではないか」と、ガス炊飯器が世の中に登場したときに声があがったという。決してそんなことはないのだが、ガスを燃料とした調理をしたことのない方々にはガスの炊飯器は理解できなかったのだろう。お客さまに新たな技術・料理法をご理解いただくこと、美味しい料理づくりの普及を目指していくため、「料理講習」を各地で展開してきた。大阪ガスの長年の活動で、4世代で大阪ガス料理講習で学ばれたご家族もおられる。
明治から大正、そして昭和と、住環境の変化とともに生活革命がおこった。暮らしをよりよく、暮らしの課題を解決する生活提案をめざし、和室から洋室への日本の生活空間の転換にあわせ、新たな住空間にあったデザインのガス器具を開発し、お客さまにご提案してきた。
(エネルギー・文化研究所 所長 池永寛明)
〔CELフェイスブック 4月24日掲載分改〕