23年前に、NEXT21の301号「ガーデンハウス」に住んでいた。NEXT21の居住実験がスタートした1994年より5年間、第1フェーズ居住実験に家族4人で参加した。部屋のなかに樹木が植えられ、ハイビスカスが鮮やかに咲き、大きな吹き抜けの解放感あふれる、まるで温室のなかで暮らすような生活をしていた。
当時4歳だった息子は27歳となり秋田でガスと石油を堀る仕事に従事し、2歳だった娘は大学を出て今はファッション業界にいる。そんな子供たちはまだ小さかった23年前のNEXT21を鮮明に覚えている。子どもたちは緑あふれる部屋と一体化した空中街路を出て、一階にあった野鳥の会で鳥の勉強をしたり、屋上の畑をのぞき、近所の公園で蝉とりに興じたり、毎日をエンジョイしていた。とりわけ自転車・三輪車で走り回った空中街路から見た風景やワクワク感は今でも目に浮かぶという。
1994年より、大阪市天王寺区にて、住まい方実験(住戸、住棟、地域)と、住居のエネルギーシステム実験を大阪ガス実験住宅「NEXT21」にておこなっている。様々なテーマを盛り込んだ実験住宅であったが、NEXT21は「環境住宅」という文脈で捉えられた。NEXT21の「環境」をテーマとした実験住宅のコンセプトは時とともに変わる。フェーズ1が「ゆとりある住生活と省エネと環境保全」、フェーズ2が「地球環境と人のくらし」、フェーズ3が「持続可能な都市居住を支える住まいとエネルギーシステム」、フェーズ4が「環境にやさしい心豊かなくらし」と5年ごとの居住実験ごとに時代環境を踏まえ位置づけを変えている。
1997年12月に京都で開催されたCOP3で京都議定書が採択されて以来、世界は環境問題に取り組んでいく。昨年11月にパリで開かれたCOP21。COPとは国連気候変動枠組条約締結国会議のこと。このCOP21・パリ協定で「産業革命前からの気温上昇を2℃より低く抑え、1.5℃未満とすることを努力目標」とするという環境目標が示されたが、環境問題は「産業革命」が出発点であり、エネルギー問題そのものであった。
エネルギーの論点をさらに変えたのが、この20年で発生した大震災。エネルギーの価値観が根本的に変わる。
1995年1月17日、阪神・淡路大震災。空前の自然災害で大阪ガス史上最大の85.7万戸のガス供給停止。全国のガス事業者さまの応援を含む延べ72万人の復旧要員、3ヶ月の現場でのガス復旧作業をおこなうなか、『これで、お風呂に入れます』というお客さまの声に、ライフライン事業者の使命を再認識したことは忘れられない。
つづく2011年3月11日、東日本大震災。当時日本ガス協会企画部長に出向しており東京にいたが、会社生活のなかで、最も長い3週間をすごした。余震が断続的に続くなか東北の復旧応援と併行して、計画停電をはじめとする『エネルギー危機対策』と『新たなエネルギーの形』を経済産業省と協議していたが、照明の消えた経産省の廊下を歩いた日々のことは忘れられない。
そして今。2つの大きな震災でエネルギーに求められる価値・仕組みが変わり、2011年3月11日からのエネルギー基本潮流は、「人」を主役としたものとなる。
①エネルギー・レジリエンス
…生命を、事業を、都市を守りつづけるエネルギーであること
②エネルギー・ベストミックス
…ICTを用いて、従来エネルギーに再生可能エネルギーを組み合せ地産地消のエネルギーモデルをつくること
③エネルギー・バランスフロー
…エネルギー事業者からお客さまへの流れから、お客さま・地域が主導となりエネルギーを調達するという流れに変えること
となった。このようにエネルギーの価値観が変わった。
最後に、4月に京都女子大学で講義したエネルギー文化史をまとめる。4つのエネルギー革命があった。
・第1次エネルギー革命=火の発見×自然エネルギー
・第2次エネルギー革命=蒸気機関・動力×石炭+ガス
・第3次エネルギー革命=発電システム×(石炭・石油・水力)+原子力
・第4次エネルギー革命=エネルギー融合(エネルギー・ミックス+環境+地産地消)×ICT+水素
(エネルギー・文化研究所 所長 池永寛明)
〔CELフェイスブック 5月1日掲載分〕