メルボルンのある再開発地区プロジェクトの地域住民に、「町として何が必要ですか?」と州政府の方が質問したところ、「みんなが集まる場所が欲しい」との要望があり、地域に学校や病院をつくる前に図書館を作ったという。
「世界でいちばん住みたい」と言われるメルボルンには魅力的な大学が揃っており、世界各国からの留学生が多く、世界中からの企業駐在員や移民が多く、メルボルンの住民の60%が25歳〜45歳、かつ住民の45%が海外生まれという人口構成という都市の特性がある。図書館内の案内表示や貸出機などのサービスコンテンツは多言語・多文化対応がなされている。
新たなまちづくりにおいて、住民はまちにとっての最重要なインフラとして図書館を求めた。 「コミュニテイが結束するためには、みんなが集まる場が欲しい。たんに本を探し読むだけの図書館ではなくコミュニテイ利用の場が欲しい」という市民の声に応えるため、コミュニテイ、学生、子どもたちが予約して使えるコミュニテイスペースが図書館内に多く用意されている。
さらに「この図書館に、何があったらいいのか?」と地域住民に質問した。
すると「美味しいコ―ヒーが飲みたい」と市民たちが言った。そこで図書に加え、1階の入口にカフェを作った。さらに2階に学習室や卓球室、3階に創造スペース(3Dプリンター・作曲室・映像編集室など)が用意されており、館内は日本の図書館と大きく違っている。
図書館はたんに本を探して読むだけの場ではない。
「世界でいちばん住みたい」と言われるメルボルンでは、図書館に込めたコンセプトは出会いの場であり、学習の場であり、創造の場であった。図書館を新たなまちづくりの中核の場に位置づけられている。
日本の図書館といえば司馬遼太郎記念館の空間を思い出す。
東大阪の事務所に勤務していた頃、東京から来られるお客さまは司馬遼太郎記念館に行きたいといわれる人が多く、東大阪市にある記念館にご案内した。館内に入られるとお客さまは圧倒的な司馬遼太郎氏の思考の束に声を失う。11メートル3層吹き抜けの大書庫に並べられた2万冊の山につつまれ、司馬氏の世界観、長年格闘された司馬氏の創造空間に圧倒される。そして遺された原稿用紙に司馬遼太郎氏の曼荼羅のような推敲を見ると、何度も現地に足をはこび情報収集してコンテンツとコンテクストを重ね合わされた司馬氏の知的格闘のスタイルに心をゆさぶられる。本につつまれるということは、本を探し集め、著者・編者と対話しながら読んだ人の精神的デザインを感じることでもある。
そこから歩いて15分の近畿大学東大阪キャンパス内に凄い図書館ができた。
「アカデミックシアター」と呼ばれる新図書館は、編集工学研究所の松岡正剛所長が監修され、従来の大学図書館とは思えない図書空間が生まれた。3万冊の図書が33のテーマに並べられた1階の「ノア33」、マンガ本2.2万冊を含む新書・文庫4万冊が並ぶ「ドンデン」が、縦横無尽に創造されている。図書とはまさに「編集」活動することだと感じさせる。
図書館は本を探し読むことだけが目的ではなく、この空間は出会いの場であり、学習の場であり、理解しあう場であり、創造の場であるということを学んだ。
(エネルギー・文化研究所 所長 池永寛明)
〔CELフェイスブック 12月23日、4月4日掲載分改〕