そのカレンダーになにが書いているのかよく判らなかった。気仙沼港で水揚げされた漁船名がいっぱい書いているカレンダーを出すタクシー会社がある。気仙沼港に漁船が入港すると、港に待つタクシーに乗り、漁船の乗組員が市内をまわる。“気仙沼ピット”を象徴するようなカレンダーだ。
311の前、気仙沼観光タクシーは「便利屋タクシー」を目指していた。
気仙沼にはタクシー会社が十数社あるとお聴きした。人口規模を考えると多いだろうが、タクシー会社は共存されている。漁船乗組員や観光客の移動だけでなく、地域交通の要として住民が高齢化するなかで買い物、病院、送迎と気仙沼の人たちをサポートしている。
気仙沼観光タクシーはタクシー会社の枠を超えている。
京都の大学で勉強した3代目社長は、明るく、エネルギッシュ。水揚げ漁船カレンダーしかり、タクシーの車体をブランドカラー「ベクシーレッド」に変えたり、目立つ。市内を走っていても気仙沼観光タクシーの車はすぐわかる。スタッフの制服もネクタイもブランドカラー。とにかく派手。
311の前は「便利屋タクシー」として“お客さまへ仕える喜び”をもとうと考えられていたが、311の体験によって大きく変えられた。風景、困難な生活と閉塞感あふれ元気のない気仙沼に、彩りを与え、“元気”をとり戻したいとの想いから、“気仙沼の活きる鼓動”「HEART BEAT BEXI」と位置づけ、ブランドを一新した。タクシー車体をそれに統一した。
さらに気仙沼の子どもたちを対象に車のペインティングデザインコンテストをおこない、300ものデザインから2作品を車にペインティングし、街中を走る。明るく、元気よく、瑞々しく、チャーミングなタクシーである。素敵に、すこしお洒落に、気仙沼の心に鼓動を与える取り組みである。会社の事業がそのまま気仙沼の発展につながる。
本社事務所を「ワンダーランド」と名付け、被災した今だからこそできること、しなければならないアイデアを考え、プロの人々の力を借りパワーを結集した。本社事務所が地域コミュニティの中心となり、笑顔の花が咲き乱れ、子どもたちがワクワクするワンダーランドを目指されている。津波被害があったからこそ、1階は車、2階は人という構造とし、人と車が交差することのない、安心・安全なまちづくりを目指している。
目線はすべて地域との“共創”。3代目の宮井社長は底抜けに明るく、やはり気仙沼にとどまらず、ソトの人たち、本物たちとともに気仙沼のかつてあった本質に、京都で学んだセンス、マインドや新たな国内外のトレンドをかけあわせ、“気仙沼の本質”を再起動させようとしている。宮井社長と話をしていると、関西で話をしているような錯覚を覚える。
陸前高田の八木澤商店の8代目会長しかり、箱根山テラスをつくった社長しかり、気仙沼観光タクシー社長しかり、岩手、宮城の人たちは魅力的な社長たちで、ソトの人たちをどんどん惹きよせ、新たな価値を創造しつづけている。逆に“元気”をもらった。
(エネルギー・文化研究所 所長 池永寛明)
〔CELフェイスブック 5月22日掲載分〕