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2017年12月01日 by 池永 寛明

【起動篇】 つながらない「つながり」、つながる「つながり」

  

つなぐというが、なにをつなぐのか?伝承するというが、だれに伝えるのか?

震災に学ぶため「語り部」や震災遺構をたずねる人が減っている。あの有名な「がんばろう!石巻」への道もわかりにくくなっている。311の痕跡を色濃く残す震災遺構や様々なモニュメントが各地で建てられつつあるが、だれになにを伝えようとしているのだろうか?

 

ある町内会が1年前に発行した「郷土誌」がある
地域の現在および将来の住民のために、江戸時代に塩田であったことを地名に残す「石巻市上釜地区」の町内会の人たちが、「語り継ぎたい昔のこと、震災のこと」を伝えるため、歴史と震災の地元の人たちの経験から学んだことを一冊の郷土誌としてまとめられている。

 

上釜地区では、津波で201人の住民が亡くなられた。この郷土誌をつくった町内会の役員が考えた震災の教訓「二百余名が語る上釜住民の教え」が慰霊碑に刻みこまれている。

 

「“あっ 地震だ。大っきな揺れだ” まづは自分の身を守り、揺れが治まったらば外さ出で早ぐ逃げっぺす。あん時みでぐ大津波が来っぺがら、あんだだづ、そっつでねえでば、こっつだでば おらだづのいる上釜は 北さ逃げれば見えでくるあの堤防さ架がってる “橋を渡れば命は守れっど”」

 

石巻市上釜の言葉で「早く北に逃げろ、橋を渡ったら命が守れる」と伝えている。これはたんなる記念碑ではない。そこに住んでいる人たち自らの体験から導きだされた「行動様式」を文字にしている。さらに、この具体的行動様式が書かれた背景・文脈が郷土誌としてまとめられ、町内会の全戸に配られ、総合防災訓練をおこない、子どもから大人までの住民全員に刷りこもうとしている。

 

「昔の上釜は津波に備え、多重防御構造をとった町だった。私たち役員が子どものころは、かつてあった地形を残していた。かつての構造だったら、311はどうなっていたのかと思う」と、上釜地区町内会役員が呟かれた。

 

明治時代の地図と昭和30年代の写真をみせてもらった。「①砂浜 ②松林 ③堤防 ④入江 ⑤堤防 ⑥松林 ⑦水田 ⑧松林」 と、海からの津波を何重にもやわらげる工夫がおこなわれていた。先人が考えた智恵が何重にもつみ重ねられていた。その地形が50年で一変し、311を経験した。

 

この地を含めた伊達藩の土木工事を担った土木の神といわれた長州出身の「川村孫兵衛重吉」は、この釜地区に住んでいた。慰霊碑は、川村重吉の神社、墓地の横にたてられている。上釜地区の方々は、このようにして、地区の歴史および文化を将来につなごうとしている。

 

エネルギー・文化研究所 所長 池永寛明)

 

日経新聞社COMEMO  1130日掲載分

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