大阪ガスネットワーク

エネルギー・文化研究

  • サイトマップ
  • お問い合わせ

CELは、Daigasグループが将来にわたり社会のお役に立つ存在であり続けることができるように研究を続けています。

  • DaigasGroup

JP/EN

Home>コラム

コラム

コラム一覧へ

2018年04月09日 by 池永 寛明

【耕育篇】 キュウリは曲がっているもの

   


イタリア人のシェフが日本のスーパーに並ぶ野菜や果物を見て驚いた。「キュウリは曲がっているのが普通なのに、どうしてこんなにまっすぐな のか?」と。日本では、まっすぐに揃った綺麗なキュウリでなければ、売れない。土や草などがついていたり、曲がっていたり、ゴツゴツしていたりしたら、お客さまに敬遠される。イタリア人シェフはそのあとにこういった。「この日本の綺麗すぎる野菜は美味しいと感じられない。ましてやパックに入っていたら、良いものが選べない」と。


どこの国「旬」の食材を大事にしていた。旬は月の3分の110日間。畑で野菜が収穫できるサイクルが10日からきている。だから「旬」が生まれた。かつて地域ごとに、旬ごとに、畑で野菜を収穫し、海や川から魚をとって、売ったり買ったり、近所どおしで分かちあい、旬の食材を組合せて旬の料理をつくった。このように料理は地域文化そのものだった。


その「旬」が薄れてしまいつつある。農業技術、梱包技術、輸送技術、冷蔵・保管技術、調理技術の進歩で、トマト、キュウリ、だいこん、キャベツ、たまねぎが一年中いつでも手に入る。ピーマン、ニンジン、なす、ブロッコリーもスーパーにいつでも並ぶ。こうして食卓から「旬」が薄れていく。


しかしながら料理の検索サイトでは意外なことがおこる。「旬」や「節句」の時期になると、旬・節句の料理のアクセスが急増する。子どもたちに、旬のものを食べさせたいという親の想いが今もうけつがれている。旬が忘れられたわけではない。


たとえば雛まつり。上巳の節句、桃の節句には、ちらし寿司と蛤のお吸物が並ぶ。五節句や旬の食材は今も日本の生活文化にうけつがれている。古代からの二十四節気に、5日ごとの七十二候を私たちは生活のなかに感じ、意識することがある。かつては地域によって調達できる食材がちがっていたから、同じ行事でも地域独自の料理がうみだされた。同じものがどこでもいつでも食べることができるようになったが、季節ごとの地域ならではの多様料理が失われつつある。さらに料理だけではなく、食卓での親子の文化の継承にも影響がでてきている。


イタリアに「イータリー」という食材専門店がある。スローフードの考え方にもとづくイタリアの魅力的な食材・食品が売られているだけでなく、調理の実演・食事ができる。その「イータリー」にすごい食材絵図が売られている。季節ごとの野菜絵図、魚絵図。イタリアの地域ごとのオリーブ、パスタ、パン絵図と、イタリアの食材の豊かさ、地域の食文化の広がりに驚かされる。日本が失いかけていることがあることを、この絵図で感じた。かつて日本はこの絵図を描けたはずだ


(エネルギー・文化研究所 所長 池永寛明)


日経新聞社COMEMO  214日掲載分(改)

  • U−CoRo
  • 語りべシアター
  • 都市魅力研究室
  • OMS戯曲賞
Informational Magazine CEL

情報誌CEL

【特集】場づくりのその先へ −つながりから社会を変えていく

近年、まちづくりにおいて「場づくり」が注目されています。 その試みは、時に単なる...

バックナンバーを見る
  • 論文・レポート・キーワード検索
  • 書籍・出版
  • 都市魅力研究室
  • FACEBOOK

大阪ガスネットワーク(株)
CEL エネルギー・文化研究所

〒541-0046
大阪市中央区平野町4丁目1番2号

アクセス