東京で話をしているうちに、アイデアが湧いた。
“ええな” “これは画期的だ” “うまくいく” “やろうやろう” 、とワーワー盛りあがって帰る。しかしアイデア、プランをもってホームグラウンドに戻るが、実行しない。会社のなかでの研修ではない。外部の講演会や起業ミーティング、新規分野開発プロジェクト、課題解決ミーティングなど、いろいろな会合に出て、いろいろな人に出会って、触発され、インスピレーションが湧き、プランをたてた。やる気はある、いけそうに思う。考えたアイデア、プランは悪くない。しかし・・・できない、しない。
なぜか。
東京で話を聴いて、具体的なプランに練りあげ、地元に帰った。そのプランをいざ実行しようとすると、ご当地の「しみついた思考様式」にぶつかる。「それな、前にも考えたけど、それあかんわ」「昔やったけど、うまくいかなかった」「技術的には可能だけど、うまくいくわけがない」「とりあえず稟議書を書いて、役員会議に出して」「きっと問題あるで」「予算がない」・・・そういった「できない」「やらない」理由をいっぱいあげて、東京で盛りあがったアイデア・計画は消えていく。
一方、「過去の常識を打破して、新発想で成功した 」
というような経済誌やテレビでの紹介コピーをよくみかける。しかしそうなんだけど、それはちがう。そもそも「前提においている常識」が間違っている。「できないということをやった」というが、「できないと思う」ことが間違っている。前提条件が間違っていることが多い。
「それをやると、課題がある・問題がおこる」
というが、「ノックアウトファクター」(それひとつですべてがだめになること)ならまだしも、やらない前提で議論する人がいる。また最初から「できません」という人たちもいる。できない、やらない理由をいっぱい並べて議論をする人がいる。さらには結論ありきで、議論・検討をしたという体裁を整える「為にする議論」をする人がいる。そんなことばかりしていると、「やらない」ではなく、本当に能力的に「やれない」ことになる。
成功するか失敗するかは、やってみなければわからない。
やって問題が発生したら、それを克服したらいい。それを克服した人が成功者になる。
世界最速の都市のひとつといわれる中国の深?では、アイデアをカタチにするのに、1時間もかからずプロトタイプができるという。それをすぐにマーケットで実験する。お客さまの反応に耳を傾ける。問題が発生したら、すぐに修正・改善して良いモノに仕上げて、一気に展開するという世界最速の「深?速度」がマーケットをつくりあげていく。またデンマークのデザインスクールCIIDには世界各国から学生が集まり、毎日のように社会課題を読み解き、ソリューションを考え、1週間でプロトタイプまでつくって週末に企業にプレゼンする。それを毎週プロトタイプを仕上げていく。そのサイクルを1年間おこなう。そのデザインスクールを卒業した人たちのスピード感覚で、世界は動く。慎重なのはいいが、日本速度は遅すぎる。世界の時代速度に気づかないと、とり残される。
そもそもこのCOMEMOに「やらない」「できない」という文字をいっぱい書いていたら、気分が悪くなった。「やってみなはれ」「やろうよ」と書きたくなった。
(エネルギー・文化研究所 所長 池永寛明)
〔日経新聞社COMEMO 1月18日掲載分〕