ぐんぐんと加速度を増す時代速度のなか、ちょっと先の「未来」の暮らし、学び、ビジネスにおける「ライフスタイル」がどうなっていればいいのだろうか ─ 「未来のライフスタイルを変えるモノを、私ならばこうつくる」というお考え、ご意見をお寄せください。
平成は「適合不全」の時代だった。
「失われた30年」といわれるが、なにが失われたのか、主語がわからない。とてつもなく大きく技術は進み、ライフスタイル、ビジネススタイル、ソーシャルスタイルを変え、「日経就職企業人気ランキング」にランクインする企業は30年前と現在で大きく様変わりした。新しく生まれ、お客さまに支持・選択された企業がランクインし、老舗といわれる企業が消える。新陳代謝は世の常だが、平成時代になにがおこっているのか。
変えることと、変えてはいけないこと。
「大企業」といわれる会社のトップ3人とのパネルディスカッションのモデレーターをつとめた。企業変革に向けた取り組みの討論のあと、「企業として変えてはいけないことと、変えなくてはいけないこと」を挙げて欲しいといったら、ある大企業トップの一人の答えに600名の経営者が集まった会場は静まった。
「変えてはいけないことはない。変えてはいけないことはいくらかはあるかもしれないが、それ以上に変えなければいけないことが多い。会社のあり方そのものを変えなければならない」 ─ と逆説的ではあるが、これが日本企業の実態。
「伝統的」な会社、トップは変わらなかった。
未来を決断できず、次々と「先延ばし」しつづけた。よって会社時間はとまる。そりゃ、世界におくれる、そりゃ、適合不全はおこる。そもそも適合不全になっていることすら気づかない。トップは「イノベーションだ、変革だ」と口ではいうが、社員はみんな知っている。「トップが本気ではないこと、前のめりにこれまでとはちがうこと、新しいことをやったら、とんでもないことになること」を知っている。だから会社は変わらない。新しい企業はこだわる「過去」「先入観」がないから、お客さまの実態・本質を理解して、支持され熱狂されるモノ、コト、サービスを次々とうみだせる。
「高級食パン」に人気が集まる。
そもそも食パンとはこんなものと思っていたところに、いままでなかった美味しい「高級生食パン」があらわれた。聞いたこともないような「パン屋」さんに大行列ができて、あっという間に売り切れ、その店が全国に広がる。そのスピードはとてつもなく早い。「こんなパンを待っていた」というが、考えてみたらそれまでにあってもおかしくなかった食パン。大手といわれる「伝統的」な会社はその当たり前のことをしなかったから、「下剋上」がおこる、これも「適合不全」からあらわれてくるもの。
これからどうなるのか?
と仕事柄よく訊かれるが、予言者ではないので未来のことは判らないが、未来の兆しは現在にあらわれることが多い。それは小さかったり、カタチは不格好だったり不十分だったり、予想もしない場所で生まれ、人々の心をとらえ、最初は小さいが一気に広がる。このように未来の多くは「現在」に埋めこまれているが、大半の人は「現在」を軽視するから、未来が見えない。
世の中には「未来の夢を見る人」と「過去にこだわる人」に分かれがちで、そのまんなかの「現在」を直視する人が少ない。
(エネルギー・文化研究所 顧問 池永寛明)
〔日経新聞社COMEMO 4月26日掲載分改〕