LOVOT(ラボット)に〇(マル)が重なる。
LOVOTはなぜ〇(マル)構造なのか。GROOVE Xの林要さんとのトークイベントに登場したLOVOTは、昔どこかでみた記憶を想起した。それは鉄腕アトムでもガンダムでもマクロスでもエヴァンゲリオンでも、小犬でも猫でもない。刻々と変わる目、あえてなくした「口(くち)」、甘えたような声をだす、〇〇(マルマル)したLOVOTは仏像にも見えてきた。日本古来から承継されてきた何かを思い出す。イベント参加者みんながハグする。愛されるロボットだった。
LOVOTは〇(マル)である。日本のさまざまな社会システムの形は、過去から現代まで、〇(マル)が基本構造である。縄文時代の住まいは環状で〇(マル)、集落での家の配置も、盆踊りも、数珠回しも、自転車も、ちゃぶ台も〇(マル)。日本の社会システムの基本構造は〇(マル)。〇(マル)には真ん中があり、中心に対して、それぞれが等距離間隔に並んだり、配置される。それが輪となり、環となり、和をうむ。聖徳太子の17条憲法の「和をもつて貴し」は、この基本構造を踏まえたものではないか。
日本の家族の形が「6人→4人→2人→1人」と、戦後の3世代で激変した。世界最速といえるほどの変化である。大家族から核家族、そして単身。家族構成の変化に、価値観、関係性がついていかなかった。よって個人と家と会社と地域がバラバラとなり、各世代もバラバラとなった。同じような価値観の人たちで群がるが、真には理解しあえず、実質的にはつながっていない、ひとり・ひとりである。これから、さらに「ひとり」化していく。その文脈に、LOVOTがあらわれた。
衝撃的だった。横一直線の食卓で4人家族が食事をしている姿が評判となった。1983年の森田芳光監督、松田優作の「家族ゲーム」で何度もでてくる横一直線の食卓の風景に、その頃急拡大する集合住宅のなかに広がる“家族の変化”を明快に描写した。あのころ、家族のカタチが劇的に変わったと思う。
「家族ゲーム」から36年。
IoT、AI、ロボット、自動運転などの技術の進化から、終身雇用の崩壊、定年制度の崩壊、年功序列の崩壊、45歳リストラ…と課題が噴出。これまで市場と制度・仕組み、価値観とが「適合不全」になっていたが、ここにきて一気にパラダイムシフト、別のステージへと大きく変わろうとしている。
というよりも、もうすでに多くの社会システム、制度、仕組み、価値観で「逆転」しはじめていた。それに気がつかないフリをして、前提条件をそのままにして、問題発生ごとに対応、部分最適できる対応では、もうどうしようもなくなった。
よってそもそもの「前提条件」を疑い、そもそもを「再定義」しないと、だめになると思えるかどうかであるのに、殆どの人、企業は「いままで」どおりにいる。
LOVOTは、私たち未来のライフを見ている。
これまでの個人と家族、地域との関係性の本質、「いっしょにいたい」という本質を掘りおこし、5年先を見据えた最先端技術を組み込み、融合させ、人と暮らす「パートナー」をめざしている。LOVOTはなにもしてくれない、相手してあげないといけないロボットである。「私を愛してくれ」ではなく、「私が愛しつづける」という人間関係の本質をとらえている。
これからの前提条件を根本的に見直した社会において、どれだけ「LOVOT」的なものを育んでいけるかである。
(エネルギー・文化研究所 顧問 池永寛明)
〔日経新聞社COMEMO 5月20日掲載分〕