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2019年11月22日 by 奥田 浩二

スタートアップとのつきあいかた(11)

スタートアップとのつきあいかた(11):
海外事例
ベンチャービジネスの活性化 英国 ケンブリッジサイエンスパーク

(2019年11月22日投稿)

 今回は英国のケンブリッジサイエンスパークの事例を紹介します。ケンブリッジ地域は、ハイテク企業が次々と生まれる「ケンブリッジ現象」で注目された歴史があります。
 (2019年8月7日訪問 本稿は訪問時のヒアリングや入手情報、関連ホームページの情報等から構成しています)

英国ケンブリッジとケンブリッジ大学

  ケンブリッジはロンドンの北北東約100kmに位置する、人口約13万人(注1)の都市です。
  ケンブリッジ大学は800年を超える歴史を有し、100人を超えるノーベル賞受賞者(注2)を輩出するなど英国のみならず世界を代表する大学です。生徒数は18,000人を超え、11,000人のスタッフと、31のカレッジ、150の学部からなっています(注3)。カレッジとは、日本でイメージされやすい単科大学や短期大学のようなものではなく、各大学が独自に設定する、学寮制を併設した私立大学のようなものです。ケンブリッジ大学にはトリニティカレッジやキングスカレッジなど30を超えるカレッジが存在しています。国立大学としての学部と、私立大学の性格を有するカレッジが並立していることが、ケンブリッジ大学やオックスフォード大学などの英国の大学の特徴の一つです。

   (注1)  https://www.cambridge.gov.uk/media/6816/strategic-housing-key-facts-summary-2018-09.pdf

   (注2) https://www.communications.cam.ac.uk/about-university-cambridge

   注3) https://www.cam.ac.uk/about-the-university/how-the-university-and-colleges-work


ケンブリッジサイエンスパーク 

 ロンドンから電車に乗ると、Cambridge駅の次にケンブリッジ北(Cambridge North)駅があり、そこから北西に20分ほど歩くとケンブリッジサイエンスパーク(注4)に到着します。 

   (注4)サイエンスパークとは、主にハイテク型企業の創出と集積と特徴とするエリアを指します。

 ケンブリッジサイエンスパークは1970年に開設しました。当時、国際競争力の強化策として、大学と産業界との連携強化が求められており、それにこたえる形でトリニティカレッジが設立しました。ですから、ケンブリッジサイエンスパークは、ケンブリッジ大学ではなく、トリニティカレッジによるサイエンスパークです。具体的には、ケンブリッジサイエンスパークの土地はトリニティカレッジの所有であり、その土地や土地の建物を第三者に貸与することで得られる収入などでパークを運営しています。まもなく開設50年となり、欧州では、最古参に位置づけられるサイエンスパークです(注5)。

   (注5)世界最初のサイエンスパークは、1951年に米国の西海岸カリフォルニアに創設されたスタンフォードリサーチパークです。日本では、1989年にオープンした京都リサーチパーク(https://www.krp.co.jp )などが最初です。

  ケンブリッジサイエンスパークのホームページ(注6)によると、土地面積152エーカー(約62ヘクタール)、企業数105、雇用者数 6500、建物数57という規模です。雇用者数を企業数で単純に割ると1社あたり約60人となります。このことから、ある程度成長した企業も存在していることがわかります。パークの中を歩いていると、2階建て相当の低層建物が多く見受けられ、一つの建物に1社から数社の企業が入居していました。各建物は密集することなく、環境に配慮した配置になっています。現在の入居企業のうち、この10年で誕生した企業は50%、ケンブリッジ生まれの企業は61%、外国企業は30%という状況です。

   (注6) https://www.cambridgesciencepark.co.uk/about-park/

 
 半世紀という長い歴史をもつサイエンスパークですが、近年2つの変化が起っています。

 一つ目の変化は、2年前に完成したブラッドフィールドセンターです。今回は、このセンターを訪問しました。ここでは、当パークで初めてとなるメンバー制を採用しています。メンバーになることで、レンタルオフィス(個室)やオープンエリアを利用することができます。対象となるのは数人以下のアーリーステージの企業です。建物内はガラス張りのオフィスや飲食スペースがあり、開放感のあるスペースになっています。入居者の選定は、コミュニティの一員として機能することを重視しているとのことです。自社への支援だけを求めるのではなく、周りの企業にも関心をもてもらうことで、地域としてイノベーション・エコシステムを形成していこうという考えです。

図表1.ブラッドフィールドセンターの様子


筆者撮影(2019年8月)

 
 二つ目の変化は、パークの拡張です。現在の敷地にはまだ開発余地があり、そこに複数の建物を建設中です。それらの建物を利用する企業・機関のなかにはアジアのサイエンスパークも含まれています。
サイエンスパークの入居企業・機関は、R&Dやイノベーション分野(ディープテクノロジー分野)が主な対象となりますので、例えば一般的な消費財の量産工場などが立地・入居することは通常ありません。しかし、ディープテクノロジー分野でも企業規模が大きくなるとケンブリッジサイエンスパークでは手狭になってきます。そのような企業のため、北側に新たな土地を確保し、当パークで成長した企業やR&D型の企業を受け入れる計画も進めているとのことです。このような開発が進めば、企業が成長するにつれてケンブリッジサイエンスパークのなかで移転するケースが増大します。これは、先にお話しした地域のイノベーション・エコシステムの強化につながる動きだといえるでしょう。

 ケンブリッジサイエンスパークのミッションは「Building a better world for everyone」です。このミッションを実現すべく、医療やサイバーセキュリティ、教育などの分野で世界を変革し、スマートな社会の実現に貢献していくことを目指しているとのことでした。そして、そのために開設後50年を経た現在も、変わり続けています。

図表2.ケンブリッジサイエンスパークのミッション


筆者撮影(2019年8月)
 

 次回は、米国西海岸に渡り、Muckerを訪問します。

 今回のまとめ


 ・ケンブリッジサイエンスパークは、50年の歴史をもつ英国最古参のサイエンスパークです。
 ・トリニティカレッジが運営し、57の建物に6500人が働いています。
 ・半世紀経った今日も新たな建物の建設やパークの拡張を行い、地域のイノベーション・
  エコシステムの構築を強固なものにしつつあります。

 
  ※今回のコラムは2019年8月時点の情報をもとに作成しています。


 次回の予告

   ・米国 ロサンゼルス Mucker

 


スタートアップとのつきかいかた 記事一覧

   第1回:起業の現状はどのようになっているのか
      http://www.og-cel.jp/information/1278928_15932.html

 
   第2回:2つの起業タイプ
      http://www.og-cel.jp/column/1279678_15959.html

 
   第3回:スモールビジネスの活性化 茨城県取手市・龍ヶ崎市の事例(前編)
      http://www.og-cel.jp/column/1279684_15959.html

 
   第4回:スモールビジネスの活性化 茨城県取手市・龍ヶ崎市の事例(中編)
      http://www.og-cel.jp/column/1279955_15959.html

 
   第5回:スモールビジネスの活性化 茨城県取手市・龍ヶ崎市の事例(後編)
      http://www.og-cel.jp/column/1280447_15959.html

 
   第6回:ベンチャービジネスの活性化 福岡県福岡市の事例(前編)
      http://www.og-cel.jp/column/1280808_15959.html

    
   第7回:ベンチャービジネスの活性化 福岡県福岡市の事例(中編)
      http://www.og-cel.jp/column/1281279_15959.html

 
   第8回:ベンチャービジネスの活性化 福岡県福岡市の事例(後編)
      http://www.og-cel.jp/column/1282055_15959.html

 
   第9回:海外事例:ベンチャービジネスの活性化 カナダ トロントのMaRS
      http://www.og-cel.jp/column/1282974_15959.html

 
   第10回:海外事例:ベンチャービジネスの活性化 英国 インペリアル カレッジ ロンドン
      http://www.og-cel.jp/column/1283073_15959.html

 
(執筆者:エネルギー・文化研究所 研究員 奥田 浩二)

本連載について 

 本コラムでは、起業で地域を元気にするための鍵を考えていきます。記載内容は、執筆者が入手した情報をもとにしていますが、執筆者の意見を含んでいます。各内容は、執筆者が所属する機関・企業の公式・公的な見解を表明するものではありません。

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