(2019年11月25日投稿)
今回は米国カリフォルニア州サンタモニカのMucker(以下、マッカー)を紹介します。サンタモニカ周辺は「シリコンビーチ」と呼ばれ、スタートアップが集積する拠点として注目が高まっています。
(2019年9月23日訪問 本稿は訪問時の入手情報、関連ホームページの情報等から構成しています。ただし、記載内容は筆者の意見を含んでいます。これまでの紹介事例についても同様です。)
今回は写真から見ていただきましょう。場所はサンタモニカの近くです。
(上)筆者撮影(2019年9月)
(下)Google mapより
一見どこにでもありそうなビルですが、このなかで全米トップクラス(注1)のアクセラレータ(注2)を運営するマッカー(注3)が活動しています。
(注1)http://seedrankings.com/#rankings
(注2)アクセラレータとは、短期集中型のスタートアップ支援プログラムです。一般的には、3カ月程度に亘って、事業に関するセミナーやメンターサービスを参加者に提供します。最終日はデモデーと呼ばれ、参加者が活動成果としての事業計画を発表し、投資家からの出資や顧客・パートナーの開拓などを目指します。
(注3)https://www.mucker.com
マッカーの創業者は、もともとはシリコンバレーで活動をしていました。当時のロサンゼルスは、スタートアップを輩出するポテンシャルは高いのに、投資環境などが十分でない(underfunded)との判断から、サンタモニカで活動を開始しました。そのマッカーが、投資活動と並行して開始したスタートアップ支援プログラムがマッカーラボです。
マッカーラボはアクセラレータプログラムです。しかし、一般的なアクセラレータプログラムとは内容が異なっています。一般的なアクセラレータでは、年に1度から数回程度参加者を募集します。そして、参加者は3カ月程度のプログラムに参加し、デモデーを最後に卒業していきます。
ところがこのように卒業する企業のうち、3分の1はデモデーで投資が獲得できていないのが現状です(注4)。これは、企業の成長は状況によって異なるにも関わらず、一律的なプログラムを提供しているからだとマッカーは考えました。そこで、3カ月というような一律の期間を設定するのではなく、企業の状況に応じて3カ月から2年程度を目安として支援するというプログラムを実施しています。年間を通じて支援する企業は10〜12社ですので、1年のある時期には、プログラムへの参加時期の異なる企業が混在していることになります。
(注4)https://www.mucker.com/muckerlab-accelerator/
支援の対象となるのは、プレシードからアーリーステージの企業です。また、一般的には、21,000ドルから15万ドルを投資して、8%から15%の株式を取得しています。
どのような基準でプログラムへの参加企業を選定しているのかと尋ねると、①対象としている市場の規模、②マネジメントチームの強さ(競争力)、そして③事業の実現可能性などを基準としているとのことでした。
ベンチャービジネスのスタートアップ活動が活発な地域は、一般的には大都市か著名な大学が存在する地域だといわれています。
サンタモニカは大都市ではありませんし、著名な大学がすぐ近くにあるわけでもありません。その点を確認すると、サンタモニカはロサンゼルスの一部として位置づけられているとのことでした。この視点に立てば、サンタモニカは大都市の一部ですし、UCLAという著名大学も存在します。さらにロサンゼルスは映画やアミューズメントパークなどエンターテイメント産業が強い街です。加えて、南のロングビーチには主要な港があり、商品の輸出などを行うEC事業者にとっては強みになるとのことでした。これらのことから、サンタモニカという都市が持つ強みが見えてきます。
最後におまけを一つ。今回、サンタモニカの街を歩いていると、面白いものを見つけました。シェアスクータです。しかも電動です。道路には歩行者マークとともに、スクータマークもありました。シェアサイクル(自転車)はいろいろなところで見かけるようになりましたが、シェアスクータは初めてみました。このように新しいサービスが次々と出現してくることは、スタートアップ出現の可能性を拡大するものでもあります。
(上)シェアスクータ
(下)道路マーク
筆者撮影(2019年9月)
次回は、アジアに戻り、台湾のサイエンスパークを紹介します。
・サンタモニカは「シリコンビーチ」として注目を集めている地域です。
・マッカーは、サンタモニカで独自のアクセラレータプログラムを開始しました。
・企業の成長に合わせて柔軟に伴走していくことが特徴です。
・サンタモニカは大都市(ロサンゼルスと直結)、UCLAという有名大学、エンターテイメント
という地元産業などスタートアップ誕生のポテンシャルが高い街です。
※今回のコラムは2019年9月時点の情報をもとに作成しています。
・台湾のサイエンスパーク
スタートアップとのつきかいかた 記事一覧
第1回:起業の現状はどのようになっているのか
http://www.og-cel.jp/information/1278928_15932.html
第2回:2つの起業タイプ
http://www.og-cel.jp/column/1279678_15959.html
第3回:スモールビジネスの活性化 茨城県取手市・龍ヶ崎市の事例(前編)
http://www.og-cel.jp/column/1279684_15959.html
第4回:スモールビジネスの活性化 茨城県取手市・龍ヶ崎市の事例(中編)
http://www.og-cel.jp/column/1279955_15959.html
第5回:スモールビジネスの活性化 茨城県取手市・龍ヶ崎市の事例(後編)
http://www.og-cel.jp/column/1280447_15959.html
第6回:ベンチャービジネスの活性化 福岡県福岡市の事例(前編)
http://www.og-cel.jp/column/1280808_15959.html
第7回:ベンチャービジネスの活性化 福岡県福岡市の事例(中編)
http://www.og-cel.jp/column/1281279_15959.html
第8回:ベンチャービジネスの活性化 福岡県福岡市の事例(後編)
http://www.og-cel.jp/column/1282055_15959.html
第9回:海外事例:ベンチャービジネスの活性化 カナダ トロントのMaRS
http://www.og-cel.jp/column/1282974_15959.html
第10回:海外事例:ベンチャービジネスの活性化 英国 インペリアル カレッジ ロンドン
http://www.og-cel.jp/column/1283073_15959.html
第11回:海外事例:ベンチャービジネスの活性化 英国 ケンブリッジサイエンスパーク
http://www.og-cel.jp/column/1283604_15959.html
(執筆者:エネルギー・文化研究所 研究員 奥田 浩二)
本連載について
本コラムでは、起業で地域を元気にするための鍵を考えていきます。記載内容は、執筆者が入手した情報をもとにしていますが、執筆者の意見を含んでいます。各内容は、執筆者が所属する機関・企業の公式・公的な見解を表明するものではありません。