(2019年11月27日投稿)
台湾の新竹市でアジアサイエンスパーク協会(ASPA 注1)の国際会議が11月11日から13日にかけて開催されました。
そこに参加し、台湾のサイエンスパークの情報を入手しましたのでご紹介します。
(本稿は参加時の入手情報や関連ホームページの情報等から構成しています。ただし、記載内容は筆者の意見を含んでいます。)
(注1)ASPAはアジア16か国、約130のサイエンスパークなどをメンバーに持つ協会です。
http://www.aspa.or.kr
筆者撮影(2019年11月)
台湾は九州とほぼ同じ面積を持つ国です。台湾では、西側に主要な都市があることはご存じの方も多いでしょう。本稿で紹介する新竹サイエンスパーク、中央サイエンスパーク、南部サイエンスパークも西側にあります。。
各サイエンスパークを概観してみましょう(注2)。
(注2)各サイエンスパークや政府(科技部)HPの情報や各種パンフレット情報を参照しました。
https://web.sipa.gov.tw/jpWeb/index.do
新竹サイエンスパークは1980年に開設しました。1348haの土地に520社、15万人が働く街です(注3)。多様な企業が入居していますが、半導体分野に強いといわれています。新竹サイエンスパークは開設するにあたり、米国のシリコンバレーを見本にしたといわれています。シリコンバレーを複製しようという取り組みは各地で行われ、うまくいかない事例も多かったのですが、新竹サイエンスパークは数少ない成功事例だといわれています。
(注3)面積や企業数などの数字は引用サイトによって微妙に異なっています。
本稿の数字は、一つの目安としてお考え下さい。
他のサイエンスパークについても同じです。
南部サイエンスパークは1996年に開設しました。台南サイエンスパークと高雄サイエンスパークからなり、全1610haの土地に200社、7.6万人が働いています。半導体や光電子工学(オプトエレクトロニクス)に強いといわれています。
中央台湾サイエンスパークは2003年に開設しました。466haの台中サイエンスパークを中心に、5パークで全1486haの土地に140社、5万人が働いています。光電子工学や精密機械などに強いといわれています。
これらの台湾のサイエンスパークには下記のような特徴があります。
第一には、政府の機関であるということです。(注2)のURLアドレスが「gov」になっていることをご確認ください。つまり、国策としてサイエンスパークが開発・運営されています。
国営であることが要因の一つだと考えられますが、各サイエンスパークの土地は非常に広大です。これが特徴の二点目です。前々回、英国のサイエンスパークをご紹介しましたが、ケンブリッジサイエンスパークは約62haでした。新竹サイエンスパークは、車で移動していても延々と続いているという印象でした。
第三の特徴は半導体部門に強みを持っている点です。台湾には、ITRI(工業技術研究院:Industrial Technology Research Institute)という1973年に政府が設立したR&D機関(財団法人)があります。この機関は多くの企業を生み出しており、なかでもTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Co., Ltd. 1987年設立)は新竹サイエンスパークに本拠地を置く半導体製造の会社です。従業員数は48,000人に上り、売上は国のGDPの4%程度を占めるといわれています。このTSMCは、サイエンスパークの成功モデルの一つであり、新竹サイエンスパークや台中サイエンスパークで巨大なビルを構えています。(今回、台南サイエンスパークは訪問していません)
このようにすでに大きな成果を輩出しているサイエンスパークですが、時代の変化に呼応した新たな取り組みも始めています。例えば、人工知能(AI)やIoT・ロボティクス分野の研究開発や商業化を加速すべく、「AI Robotics Hub」を台中サイエンスパークに開設しました。ここでは、3Dプリンター機器などを配備し、企業や学生などが自由に使える環境を提供しています。
筆者撮影(2019年11月)
台湾の事例は、国策としてハイテク系の企業や産業を生み出していく際の、一つの見本となるものでしょう。
台湾では女性の社会進出が進んでいます。今回の国際会議でも、多くの女性が参加していました。私は10年以上前から、ASPAの活動に参加していますが、特に女性の参加者は増大傾向にあることを再確認しました。各サイエンスパークの要職についている女性も多くいます。
台湾ではまた、定年制度も進化しています。新竹サイエンスパークの知り合いによると、現在の定年は65歳とのことです。「日本ではまだ60歳が主流」というと逆に驚かれました。
サイエンスパークだけでなく、社会の在り方についても台湾から学ぶことが多そうです。
次回は、これまでにご紹介した事例のとりまとめとして、現在構築中のフレームワークをご紹介します。
・台湾には、新竹、台中、台南に代表的なサイエンスパークがあります。
・各サイエンスパークは巨大であり、国策のもとに建設・運営されています。
・国の研究機関から成長した成功事例(TSMC)も存在します。
・AIやIoTなどによる産業構造の変化に備えた新センターの開設なども行っています。
※今回のコラムは2019年11月時点の情報をもとに作成しています。
・起業土壌論の構築
第1回:起業の現状はどのようになっているのか
http://www.og-cel.jp/information/1278928_15932.html
第2回:2つの起業タイプ
http://www.og-cel.jp/column/1279678_15959.html
第3回:スモールビジネスの活性化 茨城県取手市・龍ヶ崎市の事例(前編)
http://www.og-cel.jp/column/1279684_15959.html
第4回:スモールビジネスの活性化 茨城県取手市・龍ヶ崎市の事例(中編)
http://www.og-cel.jp/column/1279955_15959.html
第5回:スモールビジネスの活性化 茨城県取手市・龍ヶ崎市の事例(後編)
http://www.og-cel.jp/column/1280447_15959.html
第6回:ベンチャービジネスの活性化 福岡県福岡市の事例(前編)
http://www.og-cel.jp/column/1280808_15959.html
第7回:ベンチャービジネスの活性化 福岡県福岡市の事例(中編)
http://www.og-cel.jp/column/1281279_15959.html
第8回:ベンチャービジネスの活性化 福岡県福岡市の事例(後編)
http://www.og-cel.jp/column/1282055_15959.html
第9回:海外事例:ベンチャービジネスの活性化 カナダ トロントのMaRS
http://www.og-cel.jp/column/1282974_15959.html
第10回:海外事例:ベンチャービジネスの活性化 英国 インペリアル カレッジ ロンドン
http://www.og-cel.jp/column/1283073_15959.html
第11回:海外事例:ベンチャービジネスの活性化 英国 ケンブリッジサイエンスパーク
http://www.og-cel.jp/column/1283604_15959.html
第12回:海外事例:ベンチャービジネスの活性化 米国 Mucker
http://www.og-cel.jp/column/1283606_15959.html
(執筆者:エネルギー・文化研究所 研究員 奥田 浩二)
本コラムでは、起業で地域を元気にするための鍵を考えていきます。記載内容は、執筆者が入手した情報をもとにしていますが、執筆者の意見を含んでいます。各内容は、執筆者が所属する機関・企業の公式・公的な見解を表明するものではありません。