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2019年12月04日 by 池永 寛明

【交流篇】ペットボトルはどうつくられるのか


「日本のものづくりをどうしたらいいのか」の議論がとみに増えているが、普段身近に触れているものですら、どのようにつくられているのかを知らない。ものづくりは「もの」、Web系のサービスだったら「事柄」、その仕組みや成り立ちがどうなっているのかのイメージが湧かない。たとえば自動車は2万点の部品で構成されていると聞いても、どこにそんなに多くの部品が使われているのかと思うが、“そんなのブラックボックスでいいや、とにかく車は「良い」車ならなんでもいい、格好良かったらいい、故障しなければいい”という人が圧倒的で、どうやって自動車がつくられているのかを知りたいと思わない。そんな人が「ものづくり大国・日本」などという。そのものの仕組み・つくり方がわからなければ、それをブレイクするものづくりのイメージなど湧いてこない。


たとえばペットボトル飲料のつくり方。
ペットボトルがどのように作られているのか知っている、関心がある人は少ない。大半の人は「別の工程でつくられたペットボトル容器が流れてきて、上から飲料を注ぎ込んでキャップをかぶせる」とビール瓶のようなつくり方をするのだろうというイメージがある。しかし飲料が入っていない空のペットボトルをつくり保管し移動させるためには、大きな「容量」のスペース・箱が必要となり、移動コストがかさむ。そこで、ペットボトルの「技術」は驚くような進化を遂げる。


様々な製造技術が生み出される。
ペットボトルの材料“プリフォーム”に高圧の空気を吹き込んで金型に合わせて膨らませて成形する「ブロー成形」がうまれ、さらに工夫が凝らされ、空気ではなく“あたためた”飲料を入れてパスカルの原理で均等にプリフォームをのばして成形するという製造技術がうみだされる。“飲料の圧力でペットボトルを創る”という発想はすごい。さらに飲む人がペットボトルを持ちやすいよう、輸送・配送時に潰れないよう、「飲む人」にとって「仕事をする人」にとってベストな形状へと、ペットボトルの「完成度」を高めていく。すごい「イノベーション」がペットボトルのつくり方で次々とおこっている。しかしこういったこと、プロセスが見えない、気づかない、関心がない人には、ものづくり、イノベーションや技術開発はできない。日本の課題はここにもある。



さらにペットボトル飲料のコスト構造には驚かされる。
超概算でいえば、完成したペットボトルをお店や自動販売機に持っていくコスト=「輸送費」がペットボトル飲料の原価の約4割。ペットボトルの「容器」が4割。残る2割が人件費や販管費など。では飲料コストは実は限りなく少ないのが現実。


そんなペットボトル飲料はこれまでの人々の飲むスタイルを大きく変えた。
缶飲料や紙パック飲料とちがって、ペットボトル飲料は「リターナブル」(繰り返し使用できる)で、どこでも“捨てられる”容器で、どこにでも持っていける。ということは、日本人は飲みおえた空(から)のペットボトルという容器に水を入れたり、お茶を入れて持ち運び、なんどでも使うようになった。ということは私たちはペットボトルを飲み物としてだけでなく、「容器」として買っているともいえる。
もうひとつある。ペットボトルは「どこでも買える」。コンビニでも自動販売機でも売店でも、どこでも買える。それはイコール(=)「どこでも捨てられる」。瓶の飲料は捨て場所が限定されたり重いので、そういうデリバリーができないが、ペットボトルはどこでも捨てられる、どこへでも持っていけ、なんどでも使える。そんな新たな市場をつくった。



ともあれペットボトルの製造原価の4割がロジステック。
商品性は「容器」で、原価の4割。要はペットボトルはロジスティクスが肝(きも)である。これだけトラックが街中を走っているのは、ロジスティクスの重要性を示している。にもかかわらずモノのコストのなかで、これだけ大きなウェイトを占めていることに殆どの人は気がつかない。ある新聞社の幹部から、「新聞ビジネスが成り立たなくなるとしたら、それは『インターネット』との競争に負けることではなく、新聞の宅配体制が弱まって新聞の宅配ができなくなることだ」とお聴きしたが、まさに現代社会の仕組みの本質をついている。

中国のアリババの「独身の日」で4兆円を超える売り上げがあったという。
売り上げもすごいが、この膨大な荷物をどのようにして広大な中国各地のお客さまに滞りなく確実に、スピーディーに届けているのだろうかと思う。現在の日本で、このような巨大な物量のデリバリーができるのだろうかとも思う。アリババの「独身の日」の売り上げが年々増加していくということは、IT・AIなどをも駆使したロジスティクスが中国国内で年々強化・拡充されているということだろう。


ロジスティクスは古代より重要な仕事。
なにかモノを欲しいと思っていただき、お客さまに買っていただくという「あきない」のなかで、現物をお客さまにお届けするためにはロジスティクスが機能しなければ成り立たない。江戸時代に西回り航路・北前船ネットワークが構築され、産地とそれを必要とする需要地・お客さまをつなぐことができたことで、日本の農工業と商業が発達し、日本の経済・文化を成長させたが、日本は古代より「ロジスティクス」を軽視しがちである。


ITが進めば進むほど、バーチャルなモノに惹きつけられていく。
ネット・スマホで発注することと、現物を手に入れることとの「橋渡し」の重要性が高まり、「橋渡し」=ロジスティクスがこれからの時代の最大の課題のひとつとなる。お客さまが自らお店に買いに行って持ち帰るのが普通だった時代から、ネット・スマホ通販でそれが欲しいと思って発注すればするほど、モノを動かし、ディリバー・ロジスティクスの仕事が発生する。そしてモノには、平均すると200〜300円の配達費を払うことになるが、人々はお店にわざわざ行くという「わずらわしさ」から、お店に行かずにその配達費負担をしてだれかに運んでもらいたいというニーズが生まれ、新たな市場が商店・運輸・物流会社に生まれ、年々急拡大している。それを従来のような発想のまま、新たな仕事として取り組んでいかなければ、必ず破綻する。いやもうかなり破綻しているが、それはすべての仕事にあてはまる。IT・AI=ロジスティクスを仕事の基盤としていかないと、世の中の流れについていけなくなる。


(エネルギー・文化研究所 顧問 池永寛明)


〔日経新聞社COMEMO 11月15日掲載分〕





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