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2020年03月13日 by 池永 寛明

【交流篇】ダカラコソ いま ― “笑顔”が見つめているのは



イタリアの小・中学校は午前中で授業がおわる。おじいさんおばあさんが学校に迎えに来て、子どもと手をつないで家に帰る。お父さんお母さんは仕事場から家に帰ってきて、家族みんなでランチする。レストランのランチは13時半からが多いのはそのためもある。“わざわざ家に帰ってくるのはムダじゃないの?”とイタリア人の友人に訊ねると、「どうして?家族なんだから。みんなで一緒になって食事するのはあたり前じゃないの」と不思議そうに見られた。


小・中・高校の休校のため家で勉強している子どもと在宅勤務で仕事をしている両親がリビングで一緒にいる姿、ビジネス街を父母と子どもが歩いている姿、駅前のレストランで親子でランチしている姿、公園で父母や祖父母に見守られながら遊んでいる姿が「まちなか」で見かける。


・親も子もお互いストレスが溜まって大変。“普通”に戻りたい

・おじいさんおばあさんにわざわざ来てもらって心苦しい
・一日中家にいたら、窮屈で面倒くさい。外にもなかなか行けない、大変
・家にいたらゲームばかりして子どもは勉強しない、家では仕事できない

 

本当に経済的問題もかかえて「大変」なんだけど、困った困ったといいながら、大人も子どももみんな、“いい表情”をしている。リビングで仕事をしているところに子どもがちょっかいを出してきて、もーといいながら、笑顔。公園で子どもたちが遊んでいる姿を見ながら、笑顔。スーパーに祖父母や父母に連れられ買い物の手伝いする子どもを見ながら、笑顔。


「お母さんが笑顔になれるのは、子どもが嬉しそうに楽しそうにしている姿を見るからこそです」という「お母さん業界新聞」大阪版編集部の宇賀佐賀子編集長の言葉を思い出す

 

これまで、子どもや孫となかなか会えない、一緒にいられなくて申し訳ないと思っていたのが、一気に変わった。仕事のやりくりが大変だけど一緒にいる時間が増え、なかなか外に出られない状況だけど子どもと密度の濃い時間を共有できるようになった。


これまでが普通の姿で、今が特別な姿なのだろうか。むしろ本来の姿となったのではないだろうか。

十年くらい前から、スマホでみんなと常時つながることができるようになった。LINEをつかえば、子どもが“いま、どこで、なにをしているの”がわかるし、友達とも“ゆるくつながる”こともできる。オンラインでオンタイムにつながり、困っていたら、“どうしたの”と心配してLINEスタンプも送ってくれる。嬉しいときにフェイスブックやインスタに写真をあげたら、いっぱい“いいね”もしてくれる。それが「普通」と思うようになった。

いつも一緒にいる人とも、めったに会わない人とも、こういうふうにしてつながっていると思っているところに、“家族”と濃密にすごす時空間がうまれ、大切な人たちと“つながる場”をすごせるようになったことが「ストレスになる」というのはどういうことだろう。

「おたがいが喋らんようになったら、おたがいがわからんようになる」
というのが童話作家の藤田富美恵さん。親子・家族・近所・学校・職場での人と人の関係で、“対話”がうまくいかなくなっている。とりわけ世代間での“対話”が少なくなった。


メールやLINE、メッセンジャーで、“コミュニケーションがとれるようになった”。しかしメールは「書きことば」で、LINEやメッセンジャーは「話しことば」 、面と向かっての対話ではない。今はやりの“濃厚接触”ではない。

若い人も年寄りも、相手の話をじっくりと聴くことをしなくなった。だから人と人との関係が“いい加減”になった。若い人も毎日が気忙しいが、年寄りも昔とちがってまち歩きやらスポーツクラブやらと気忙しい。「時代のスピード」が速まったという側面もあるけど、みんな、“意図的に”忙しくしすぎてもいる。

 

「昔は、みんな、顔色を見て、話をしていた。だからちょっとした顔色の変化やお喋りのトーンで、こっちのことにも気いついて、どないしたんやというてくれたが、おたがい喋らんようになったら、おたがいのことがわからんようになった」と童話作家 藤田富美恵さん。そのとおりだと思う。


東日本大震災から9年が経った今日。
巨大津波で町が流された宮城県のある自治体の幹部のことばを思い出す


「人口を増やすこと、人口を減らすことをとめることがまちの存在理由ではない。最終的に残るまちは、地域文化をもったまちではないか」

 

町を再起動するのは、綺麗な線でひっぱった都市計画でも、スマートな公園やおしゃれな図書館をつくることでもない。地域で獲れたものつくったものを地域の店に並べ、地域の人がそれを買って、地域のなかで経済がまわり、子どもの笑い声、父母や若者、お年寄りの笑顔があふれ、地域のみんなの顔と名前が一致して、声をかけあって、対話しあい、人と人とがつながること。その地域にとって大切なことを承継しつづける、”地域文化”のある町を耕しつづけることではないだろうかと311から9年目の今日思う。


(エネルギー・文化研究所 顧問 池永寛明)


〔日経新聞社COMEMO 3月11日掲載分〕

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