「10年先はどんな社会になっているのでしょうか?」
と、大学のトップに質問されることが多い。「“10年先の社会が求める”人材を大学は育てなければならないが、先が見えない」と悩む大学トップ。“なんのために就職したいのかわからない”という大学キャリア面接でつぶやく大学生。大学も、「適合不全」
“社会で何をしたいのか、何を勉強したいのか”わからないのに大学に進学するのは、企業が新任給を“大卒枠でいくら、高卒でいくら”と設定しているからで、企業では大卒でなければ“損”だから、とりあえず大学に行こうとする。この条件がなくなったら、大学はどうなるのだろうか。 |
リカレント教育・学び直し。30〜40歳前後の学びなおしは資格系が多い。大学経営は少子化に伴う大学進学者数の減少を社会人の学び直し需要の獲得に動く。需要は資格・実学にあるが、社会的ニーズは低い。学び直しをしたからと言って、給料は上がらないし、社会は受け入れない。社会人学生の需要はあるが、今のリカレント教育には「着地点」がないので、社会の需要はない。
そんな大学生たちが進む社会・企業はどうなのか。
“これからの人材”を見抜く力が企業側にあるのだろうか。とりわけ企業のなかで、市場・顧客現場から離れている人事担当が学生の能力を見抜けるだろうか。これまで大学に入ったら、いい会社に就職でき、いい暮らしができて、定年までつとめられ、退職金をもらって、悠々自適な老後を迎えられるという“約束型社会”を信じ、生きてきた現役企業側が、“これから”の企業発展に向けて、どんな人材を発掘できるのだろうか。
22歳で選択して就職した会社は、60歳の定年まで続くものと信じて疑わなかった。人気ランキングのベストテンの会社に入ったが、定年までもたず、社名が変わったり、リストラされたり、会社すらなくなったりして、22歳で描いていた「人生設計」が崩れたと嘆く人。気がつけば周りの風景が一変し、聞いたこともない「カタカナ」企業の人がものすごく給料をもらっていたりして、どうなっているのだと驚く人。 |
“約束型社会ではなくなりつつある”ことは頭で理解しているが、“看板型の生き方”を今なお強く意識する。せめて有名な会社に、せめて大きな会社に、せめて人気ランキングの上位の会社に入ろうとする。それは今の「看板」であって、10年後20年後を「約束」してくれない。
約束型社会の基盤を崩したのは、デジタル技術革新。お客さまのアクセシビリティを大きく変え、企業とお客さまのコミュニケーション方法を変え、<メーカー ⇒ 販売店 ⇒ お客さま>の商いの流れを <お客さま⇒ 販売店 ⇒ メーカー>に反転させ、<売り場 → 買う場>へと「商いの場所」を反転させた。そしてワークスタイルを変え、生産性を劇的に高め、働く人を効率化した。なによりも人が集まって働く場という「会社」という意味を変えた。
ワークスタイルの変革は、時間と場所の概念を大きく変えた。 |
それはなぜか。話し手と聴き手、若者とベテランという両者の対話の「プラットフォーム」に「知識・ナレッジ・経験」が共有されないので、お互いが理解できない。さらに「プラットフォーム」の基盤が薄いため、問題解決・価値創造において重要な「類推(アナロジー)」が発揮できなくなった。 |
デジタル技術の進展に伴う“約束型社会”の崩壊とワークスタイルの変化は、社会・企業が求める“人材像”を変えた。社員は会社に入ってからゼロから鍛えるといっていた時代もあったが、現代はそうではない。
こういう時代背景のなか、私が大学やリカレント教育や企業で講義・講演するときに観念している「これからのビジネスパーソン」の像を紹介する。
<1> 現場に入りこみ・本物にまみれて、知を「蓄積」していく力
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<2>技術と社会をつなぐ「構造」をつかむ力
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<3>社会に投げかける力
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<4>やってみよう ― 素直・柔軟・変われる力
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<5>見限り・見切り、次に向かう力
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パラダイムシフトが進行する現代社会。これからの社会ビジネスにおいて求められる人材イメージを考えてみた。ひとことでいえば、“これでええ”ではなく、“これではあかん”と思える人材である。努力しなくてもたどり着けるのは大学までで、大学を卒てからは努力しないとたどりつけない。努力した人が選ばれるコースが形成されている。そんな人と一緒に働いてみたい。
(エネルギー・文化研究所 顧問 池永 寛明)
〔日経新聞社COMEMO 3月18日掲載分〕