「緊急事態宣言」から本格的コロナ禍となって半年。「コロナ禍後はコロナ禍前に戻る」という有識者もいるが、この半年は「激変緩和」だったかもしれない。これから半年で、コロナ禍後社会の本当の姿を見せる。まずオンライン会議から考える。
オンライン会議が半年で普通になった。そのオンライン会議は、コロナ禍前の会議のように、「じゃ、今日の打合せ、議事録をつくって、メールで送っといて」でしめられることが多い。これがオンライン会議の現状を象徴している。
コロナ禍前会議の普通 ― 過剰なパフォーマンスや余分な間の時間、会議時間の3/4かけて資料説明したりするのが会議の普通だった。丁寧であるという側面もあるが、とても冗長。そもそも人間対人間はいい意味でも冗長だが、日本の会議は冗長だった。
リアルの会議では、「①メモで書きとめ記憶する ②咀嚼して解釈する ③行動する」という3つのタスクを、会議の時間内で会議メンバーが「協力」しあってこなす。しかしオンライン会議となると、この3つのタスクを会議参加者一人一人が自分でこなさないといけないことになる。
しかしオンライン会議は意外に自由で、発散する。リアル会議では発言しない人、できない人もオンラインでは発言することもある。だからリアル会議と比べて、会議3点セットの「記憶→咀嚼→行動」がなかなか難しい。
だから「じゃ、わるいけど、議事録にして、メールで送っといて」となる。いちばん若手が議事録作成を命じられたりする。上司に突然いわれるが、会議内容を理解できていないので、議事録作成は大変。周りに訊ねても全体をつかんでいる人は少ない。
本当のオンライン会議はそうではない。議事録などまとめないで、オンライン会議に参加しながら、自分にミッション、タスクを理解して、じゃ私はこれをします、ボクはここをしますと伝えて会議が終わなら、それでいいが、そうではない。会議終了して、議事録をおこして、その議事録にみんなが手を入れ、まとまった議事録を上司が見て、そこから指示…それってデジタル・オンラインでやっている意味あるのだろうか?
このオンライン会議の議事録作成は、オンライン会議のメリットを半減させる。コロナ禍で導入されたオンライン会議は非接触型で短時間でミーティングをすませようとするものだから、時間内で問題を解決したり意思決定をしなければならない。しかし「議事録つくってメールでまわして」ならば、最初からメール指示でいい。
コロナ禍前の会議室での会議・打合せでは、上司が話をする姿をみんなが見ることができる。“上司が誰に向かって話をしているのか”が明確。しかしオンライン会議ではそれが見えない。みんな、“上司はだれに話しているのだろう” “これ、だれがするんだろう”と思っている。
またオンライン会議設定は会議室確保という物理的条件がないので、オンライン会議が安易に増えていく。会議がコロナ禍前より増えている人は多い。会議ごとに「記憶→咀嚼→行動」を並行して処理していかなければいけないが、時間的にタイトな会議になればなるほど、参加者はくたくたになり、処理容量オーバーになる。このようにオンライン会議は、いつでもどこでも出席できて便利だが、便利だからこその問題がおこっている。
オンライン会議は便利で楽だが、対面会議の方法論でオンライン会議をおこないがちだから、オンラインならではの問題がおこっている。
オンラインの本質は「時間」と「場所」である。
オンライン会議では、限られた時間にどれだけ密度の濃い話ができるのかが問われる。
オンライン・リモートで時間あたりの密度が変わる。毎日、同じ場所に集まって、みんなといっしょに仕事をした時代の対面会議から、テレワークのなかでのオンライン会議に切り替えたが、対面会議の方法論でコミュニケーション手段をオンラインにしただけならば、コロナ禍前より会議のレベルがおちる、時間当たりの密度が下がる、労働生産性・パフォーマンスがおちる。
本格的コロナ禍に入って半年。リモ―ト・オンラインが普通になろうとしている。なんでもかんでもオンライン会議。いつでもどこでも仕事ができ、会議に出席できるように「働く」スタイルが変わった。
リモート前よりパフォーマンス密度(仕事の成果)はあがったのかさがったのか。いろいろなオンライン会議に出席するが、二極化しているような気がする。
①や②は”コロナ禍前よりレベルがおちた。スローペースになった”という人・会社・組織がいる。一方”コロナ禍になってクオリティが高まりペースは上がっている”という③の人・企業・組織がいる。
あなたは、あなたの会社・組織は①か②か③か?
それぞれがそれぞれの世界のなかだけで仕事をしていれば”コロナ禍のせい”だといって慰めあえばいいが、ビジネスはそういうわけにはいかない。①②の人・企業・組織と③の人・企業・組織が仕事することは当然ある。そのとき、どうなるのか。淘汰されていく。
今までなら致し方ないとみられたが、コロナ禍後のこれからはそうはいかない。世の中の本質をつかんで動いている、次に向かって動き出している人・企業・組織はコロナ禍後、パフォーマンスや密度を高めつづけている。ニ極化は一気に進んでいて、これから半年で、さらにはっきりと目に見えるようになる。
これまでの半年はコロナ禍「リセット(大断層)」への激変緩和期だった。本格的コロナ禍リセットの姿はこれから半年で顕かになる。あなたはコロナ禍後の準備はできているだろうか。
(エネルギー文化研究所 顧問 池永 寛明)
〔日経新聞社COMEMO 11月25日掲載分〕