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2020年12月21日 by 池永 寛明

【交流篇】こんなんでほんまにええんやろか ─ コロナ禍、これからどうなる (5)


大阪赤信号につづいて、GoToトラベル全面停止ショックが日本中を駆けめぐる。こうなると判ってたんとちゃうか、この冬にこうなると判ってたんとちゃうかというけれど、みんな、不都合な次の頁を見ないようにしている。グランドから出て、スタンドで傍観している。きっとなんとかなる、だれかがなんとかしてくれる、責任を被りたくないから本当はこうしたらいいと思っていても、言わない、動かない。そうしているうちに、時が経ち、本当のコロナ禍の姿が顕れた。なぜそうなったのか。一言でいえば、コロナ禍を舐めていたのだ。


コロナ「禍」からコロナ「下」と言い換えだした、まるで不況「下」のように。コロナ「禍」のという漢字には、「元に戻らない」という意味が含まれているが、コロナ「下」は、災難にまきこまれたが、じっと我慢してやり過ごしていたら、なんとかなる、元に戻ると思い込もうとしていた。明けない夜はないと思おうとしていたが、時が経っても、なんとかならなかった。


GoToトラベル全面停止ショックは、トラベルや年末年始の移動制限というだけの問題ではない。今年一年、我慢すればなんとかなると思っていたが、この状態が来年も続く、それくらい長引くのだということが決定的になったというのが本当のショック。みんな、知っている、半年1年と、1年半と2年とでは全然違うということを。


コロナ禍のこれまでの半年1年は、激変緩和の期間だった。これからの半年1年に、コロナ禍の本当の姿が目に見えて顕れてくる。それを読み解く視座は「仕事の変化」。これが社会を変えていく起点ではないか。


1.ワークとライフが溶け合って一体化する一日

「ほんまに、みんな、仕事しているんか?」と問われたら、ドキッとする。家でちゃんと仕事しているんか、外で遊んでると思われてるのとちがうやろか?みんな、どないしてるんやろか?


在宅勤務、テレワークになって半年1年に近づこうとして、それが普通になった。師走になり、さらにそれが求められるようになって、こんなんでほんまにええやろか、大丈夫やろか、これからどないなるんやろか、と不安になる。


どないにもならない。これが普通となる。コロナ禍は、大断層(リセット)である。難しい、できないとおもっていたテレワークを1週間体験せよといわれ試行したら、問題なくできた。では次は2週間3週間1ヶ月…気がついたら半年が経った。少々の不具合もあったが、慣れたら、なんともない。それ以上に、すごいメリットがある。そのことを、みんな、あまり言わない。


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コロナ禍による最大の変化は、「だれでも、いつでも、どこでも」。オンライン化による「場と時間」革命がもたらす。毎日のように、自宅から事務所・工場に通勤することが減り、家などで生活しながら仕事をする、仕事をしながら生活をするようになった。


ワークをどうライフをどう、ワーク とライフのバランスが大切だと、これまで言ってきたが、ワークのなかにライフが混じり、ライフのなかにワークが解けあい、一体化して、「どう生きるか」が大切になっていく。そうなると、ワークは、これまでの「時間チャージ(拘束)や生産性」という管理指標では捉えられなくなり、“なにを生み出せるのか、どんな良いモノにできるのか”という品質が問われるようになる。


コロナ禍は集中の社会構造から分散構造に転換しつつある。働く場所がオフイスから外が主となった。オンラインをベースとしたオフィス外のワークスタイルという目に見えるカタチの変化だけではない。コロナ禍のなかでワークとライフが溶け合って生み出される価値観への変化こそがコロナ禍の本質ではないだろうか。コロナ禍も半年がすぎ1年が近づくなか、ワークとライフが溶け合った新たな生き方に取り組む人がすでに動きだしている。ワークが拡張しライフが拡張し、人々は働きやすく暮らしやすいリアルの「場」を求めて、動きだした。これから、さらに場は大きく変わる。


図2


2.ワークがゲーム化する

オンライン会議が普通になった。リアル会議は殆どなくなった。遠方の人、多忙な人、普通ならば会えないような人とも、ミーティングできるようになった。


今までならばありえなかった「場」がオンライン上にたくさんできた。会議だけではない、講義や講演もそう。オンラインで、「だれでも、いつでも、どこでも」受講できるようになった。学ぼうと思えば、いくらでも学べる環境となった。


それが、すでに半年が経ち、1年が経とうとする。だれもに与えられた、この情報収集スタイルを使って、なにをどう取り組むかによって、とてつもない“差異”と“機会(チャンス)”が社会のあちらこちらでうまれつつある。オンラインによる「情報収集」スタイルの進化が、コロナ禍最大の地殻変動をおこしている。


もうひとつある。これまでは、“知っている”メンバーと仕事をしていた。リモートワークとなって、オンライン会議に、“見知らぬ”メンバーが出席するようになった。同じ会議参加者として「時間」共有、「資料」共有しているから、会議テーマに関係がある人だろうが、アバター参加が増えてきた。


最初は奇妙だったが、アバターが参加するオンライン会議のほうが、予定調和にならず、スピーディで高品質な「結論」が導かれるようになることも多い。アバターが参画した会議のほうが、ロールプレイングゲームのように、それぞれの役割なり使命に集中できるようになる。


コロナ禍で進むリモート・分散ワークは、これまでの曖昧・ファジーの世界ではまわらない。目標・タスク・役割・体制・スケジュールを明確にしなければいけない。取り組む案件において、それぞれが役割を担い、目標達成に貢献できるスキルなり知識なりがあれば、年齢フリー、経歴フリー、性別・国籍フリー、帰属組織フリーとなり、結果的にダイバーシティとなり、高品質な成果を生み出せるようになりつつある。


ワークにゲームが入りこむ。化粧や服装、背景など業務において不要な「情報」を気にしなくてよくなる。アバターとなると、目線も容姿も必要にならず、案件に集中できるようになる。「特定」分野のスペシャリストのアバターとして、様々な案件に関与する方が良い仕事ができる時代、社会になる可能性がでてきた。こうしてワークは「ゲーム」化していく。


3.4月の入社式はなくなる

今年2020年4月は新入社員の入社式を開催できなかった会社が多い。
入社式は何時間だけの儀式ではない。同じ会社に入社し、4〜5月に同期として飲み歩き、仲間ができ、その後の“会社人生”に影響を与えあった。入社後の短期間に愛社精神がたたきこまれ、定年まで頑張った。それがなくなると、同じ年度に入社した人だねというくらいの同期の関係になってしまう。


その入社式が2021年も、2020年につづいて2年連続で中止・延期となると、それが「普通」になっていくかもしれない。4月の入社式という制度がなくなり、新卒大量採用がなくなるかもしれない。これまでの「新人は入社後に会社でじっくり育てたらいい」という人材育成は、なくなっていくかもしれない。


新入社員として採用して時間をかけて、長期的・組織的に育てるのではなく、目標達成、ミッションに貢献できそうな人を外から探し、案件ごとにチームを編成して目標達成していくという仕事の進め方に変わっていく。リモートワークにオンラインが普通となり、アバターが普通になれば、これまでの会社の人材・採用戦略が変わる。たとえば、


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4月に新卒社員をまとめて採用して、じっくりと時間をかけて育成するということをしなくなる。昔はよくこんなことを言っていた ― 「大学ではそんなに勉強しなくていい。会社に入ったら、OJTとOff−JTで会社「色」に染めて、じっくりと戦力にする」と。しかしその会社が人を育てていく到着点である長期のあり姿が見通せなくなった。


新人を採用することは、コストである。もともと会社が社員に支払うコストとその社員が会社生活で会社にもたらす収益というリターンとの関係で、「人材採用」を考えることなどなかった。それを考えると、案件ごとに、問題解決、目標達成に貢献できるスキルをもった人材を外から調達し確保した方がいいと、コロナ禍後に考えるようになっていくかもしれない。


そうなると、大学も変わる。大学の4年間を就職のためのコストと考える人にとれば、大学の授業料は高すぎることになる。大学をでても、就職して、これまでのような予定された会社生活ができないとすると、「大学に行かない」 「大学を辞める」と選択する人があらわれてもおかしくない。


コロナ禍に伴なう劇的に変わろうという社会のなか、オンライン講義をなんとか対面講義にしなければと考え、今までの前提で考える大学人が多いが、そういう大学を選択する学生は大きく減ることになるのではないだろうか。10年後の社会を見据えた人材づくりをすることが大学の目標とするならば、コロナ禍の大学のあり方そのものを大きく変えなければいけない。

コロナ禍後は、「仕事の変化」が起点となって、これまでの社会・生活・都市・地方の枠組みをリセットし、新たな社会システムを生み出していくことになるだろう。これまでの「昭和」脳では思いつかない世界となる。
この半年1年に、その姿が顕れてくる。


(エネルギー・文化研究所 顧問 池永 寛明)


〔日経新聞社COMEMO 12月16日掲載分〕

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