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2021年03月04日 by 池永 寛明

【起動篇】コロナが終わったら、元に戻るのか?(上)


東京新橋のSL広場を歩いていて、“コロナが終わったら、元の新橋に戻ると思いますか?”と声を掛けられたら、あなたはどう答えるだろうか?

「元」といっても、コロナ禍前がどうだったのかという記憶が徐々にあやしくなりつつある。昨年1〜2月より前の社会がどうだったのかという記憶が少しずつ曖昧になりつつある。さらに思い出す過去の記憶は浄化され、麗しいイメージに変わっていく事柄が多い。みんなで楽しく食事をしたり素敵な街をぶらぶらしたりコンサートやパーティに参加したり ── という楽しかったイメージが美しく輝きだし、日々の満員電車に乗った通勤やビルのなかの大きなフロアでみんな一緒に夜遅くまで仕事をしていたイメージはどんどん薄れていく。


1.モチベーションはどこで?

新橋のSL広場を行きかうサラリーマンには、楽しみがあった。
家を出て電車に乗って会社に入って仕事をして、仕事のあと仲間や友人と居酒屋で飲んで語りあう ── それが楽しみでもあって、会社に行った。仕事は楽しいことばかりではなかったが、出社し「時間チャージ」で頑張った。楽しみは仕事の帰りに酒を飲んでみんなと語ることだったが、それができなくなった。これからどうなる。

センスのいい服を着て、ランチをしたり、お洒落なレストランに行ったり、街で買い物したりすることも楽しみに、出社した。それが、ある日から会社に行ってはいけないとなった。在宅で仕事ができるようになって、リモートで十分仕事はできることがわかった。都心に行かなくとも、家で映画もコンサートも楽しめるし、近所の美味しいお店や素敵なお店を発見した。家・近所でいいじゃないかと思うようになった。そうすると、都心に出かけるのが馬鹿馬鹿しくなる。コロナが終わって、元に戻るのか戻らないのか ── その答えはすでに出ている。

コロナ禍がおさまっても、元に戻らない。しかしすべてが変わる・戻らないわけではない。戻らないことが本質だが、戻らないものもある。変化する時期もいろいろで、コロナによっていろいろなスタイルが変化する。オンライン会議など仕事の仕方や方法はコロナがあったから変わった。それは戻らないことが多い。しかし人の気持ちや物事の本質は、コロナ禍の前も後もなにも変わらない。コロナ禍で変わること、変わらないことを混同させてはいけない。



2.コロナだから「頑張る」ということは
今までしていたことができなくなった。今まで普通だったことが普通でなくなった。今は我慢する時である、辛抱の時である、頑張るのだという空気がつづく。


日本人は“頑張れ”が好き。ビジネスでもそう、スポーツもそう、震災・災害もそう。東北震災復興ガンバレ、頑張れ東北、がんばれ日本…。
たとえば東北は、“頑張れ”とこの10年間、声をかけられつづけてきた。だれも東北を袖にしたり無視したりしていない。
“頑張れ東北”と、10年間頑張れと言い言われつづけてきた。エールはあまりつづけると、無責任になる。エールを送りつづける方も、エールを送られつづける方も、疲れてくる。
そもそも頑張っていない人って、どれだけいるのだろうか。みんな、がむしゃらに頑張っている。頑張っている人に、さらに頑張れとエールを送るのはマウンティングのように見え、失礼な言葉ともいえる。

 

ともあれ現在は我慢。コロナがおわるまで頑張る。コロナがおわったら、我慢しなくてすむ。コロナがおわったら、お客さまはコロナの前のように来ていただけるだろう。そうすると、なんとかなる。
しかしコロナはいつおわるかどうかである。コロナ収束の時期がいつかによって、どのように頑張る、我慢する、辛抱する、耐え方が変わっていく。しかしコロナ禍の現在、頑張る、我慢すると考えることは、正しいのだろうか。

禁煙を例に考える。禁煙をはじめるときは、煙草がすいたくてすいたくてたまらなかったが、禁煙が1ヶ月が経ち2ヶ月が経ち3ヶ月が経つと、すわなくても大丈夫になる。それまで長年さんざんすっていたのにすいたくなくなり、煙草をすっている人を見ると、まだ煙草をすっているんだと思うようになる。そういうことが、コロナ禍で社会のあちらこちらでおこっている。
コロナ禍の本質は、ここにもある。

3.あなたが営業の人・企画の人だったら
「コロナが終わったら、コロナ禍前にしていた営業活動は戻ると思いますか?」
と問われたら、どう反応するだろうか。毎晩のように接待の会食に週末ゴルフをしていた人はどう答えるだろうか。
「コロナが終わったら、コロナ禍前のような接待活動を再開する」と答える人・企業はどれだけいるだろうか。お客さまに面対できなくなったので、オンラインやメールで、お客さまにとっての有用な情報を提供して評価され成果があるのならば、接待活動をする必要があったのだろうか。このような「知的接待」でうまくいくならば、それでいいではないか。接待だけがクローズアップされるが、本当はコロナ禍後に始めたわけではなく、コロナ禍前にこのような「知的接待」に取り組んでいる人・企業は多い。

営業だけではない。企業のなかで事業計画を時間をかけてつくり、役員会議の前に社内を駆けまわって事前調整・根回ししていたのが、オンライン会議になったためそれをしなくなり、意思決定プロセスはシンプルになりスピーディになった。そして会議資料はぐんと薄くなった。もともといらない資料をつくっていた時間が無くなった。劇的に変わりつつある。

1年も2年も、コロナ禍前に毎日毎晩毎週していた接待をしなくなった仕事のスタイルに慣れたら、再び前のスタイルに戻れるのだろうか。コロナ禍のこの状況がさらに3年4年もつづいたら、どうなるのだろうか。接待を一種の社会人の常識だと考える価値観だったが、コロナ禍後、果たして接待を「常識」と思うだろうか。コロナが終わったら解禁だとして、かつてのような毎晩毎週末の接待を復活したとしたら、

といわれるだろう。接待をする側も接待を受ける側も大きく変わる。

それはたとえばバブル時代に流行った髪型とか肩パットの姿をしていたら、「まだそんなこと、やっているんだ…」と思われるようなものである。

接待だけではない。先にあげた企画も人事も総務も広報も研究も技術開発もサービスも、“接待的”な旧態依然としたものが多くある。それをコロナ禍にどう正していくのかである。

ここでいちばん大きな問題がある。このコロナ禍はいつまでつづくかである。それで大きく変わる。それは次回考える。


(エネルギー・文化研究所 顧問 池永 寛明)


〔日経新聞社COMEMO 3月3日掲載分〕


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