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2021年05月11日 by 池永 寛明

【場会篇】東京はどうなっていくの?


「東京から来ないでください」に「東京に来ないでください」― このやりとりにコロナ禍の本質が凝縮されている。東京の人たちがショックをうけたのは、コロナ禍になって、「東京の人は来てくれるな」とか「東京から帰ってこないで」といわれたこと。それが、東京と郊外・地方との形勢が逆転した局面だったのではなかろうか。



1.東京から来る、東京から帰るということ
コロナ禍までは、東京から来たら、帰ってきたら、
東京の人が、新しいモノやコトや情報を持ってきてくれた。最先端のビジネスネタやファッションやスイーツや感性・感覚をもってきてくれた。“東京から来る” “東京から帰って来る”ということは、


それがコロナ禍になって、変わった。
実はそんなモノやそんなコトや情報は、どこにいても、どこからでも入手・調達できるということは、「ネット社会」になって元々分かっていた。コロナ禍となって、「オンライン社会」が本格化したことで、全世代が気づいた。

東京から来てもらわなくても東京に行かなくても、地方にいても殆どのモノやコトを手にすることができる。内々の情報も、東京の人だけ手に入るのではない。朝から晩まで24時間飛び交うネット・SNSを見れば、大半のことはつかめる。

そのうえ日本中から世界中からいろいろな人が集まる高密度な集中場所である東京はコロナ感染リスクは高いとして、”東京から来てくれるな” ”帰って来てこないで" という場所になった。

それらが、脱東京を加速させている。



…ということは、コロナ禍前も頭では分かっていたが、コロナ禍による強制的移動・行動制限が断続的につづき、東京の人も地方の人も新たな枠組みでの行動様式を繰り返すなか、”そうなった”と認識・納得せざるを得なくなりつつある。



2.都市と郊外はどうなっていくのか
この一年、コロナ禍がトップニュースで流れる。まず全国と東京の感染者数がセットで伝えられ、朝も昼も夕方も夜もコロナ禍報道で一色、銀座・澁谷など東京の街の風景が毎日のように一映し出されると、コロナ感染をコントロールすることが難しい大都市「東京」を印象づける。

そうすると、地方の人にとれば、地方でもできるのに、地方に住むほうが良いのに、コロナ感染リスクの高い巨大人口都市東京に行ったり、こんなに高い家賃の東京に住んでいるのだろうと思うようになり、一年経ったコロナ禍に、


という将来不安から、東京ばなれがはじまり、明治維新以来の歴史的な「東京ばなれ」がおころうとしている。



都市とはなにか。
「都」とは自然のなかに城郭をつくり、人が集まり、農業や工業などの仕事をして暮らす場のこと。都には「農・工・商・住」のすべてが揃い、そこでつくったものをそこに住む人に売り買いする「市場」が生まれる。都に市が加わるから「都市」となるのが字源。
だから住むだけとか、商業だけとか、工場だけとか、学校だけといった単一機能の場所は、字源でいう「都市」ではない。

では「都市」の反対はなにか?
都市の反対は、地方なのか?田舎なのか?農村・漁村なのか?
 ―― 答えは「郊外」都の外を意味する「郊外」である。

「郊外」は都市との関係で存在する。その関係を無視して、なんでもかんでも「都市」の枠組みで計画して、街をつくろうとした。日本の都市計画はそもそもの歴史的背景や環境や必然性を理解せずに、日本中にミニ東京やミニ銀座や同じような駅前の広場があるというような「都市」をデザインするが、その多くは失敗した。ひたすらになんでもかんでもを東京に集めて、東京だけ肥大化させて郊外・地方を弱らせた。

そしてコロナ禍となった。都市と郊外の枠組み、東京と日本全国を再構築するチャンスが訪れた。

 



3.オリンピックの決断は
コロナ禍2年目になって、アンカーだった東京オリンピック・パラリンピックのイベント性・象徴性が無くなりつつある。コロナ第4波が進行するなか、東京オリンピック・パラリンピックの開催が危ぶまれている。開催するのかしないのか、万全なコロナ感染対策をおこなって開催したとしても


という記憶をコロナ禍とともに残すことになるだろう。仮に開催できなかったとしても、同じような空気となるだろう。コロナ禍の真っ只中で、東京オリンピック・パラリンピックをやるのかやらないかの決断が、日本のみならず世界の現代社会に影響を与えるのみならず、「コロナ時代」となるだろう2020年代社会に長期にわたって影響を与えることになるかもしれないから、その選択は難しい。


オリンピック、やるやらない。
とても難しい決断である。オリンピックを決行する決断をしたメリット、デメリットがある。一方、中止する決断をしたメリット、デメリットがある。さらに中止の場合は、なぜ中止したのかという「なぜ」という理由が重要となる。最も合理的な結論はある。

誰も悪くない。コロナで中止せざるを得ない。

コロナのせいにする。問題は、それをどう導くのか。
この結論は日本だけでなく、世界にも前例になる。世界的な災難が起こったときに、どのようにして終わらせるのか、コロナ禍のなか、オリンピックをどう着地させるか、固唾をのんで、世界は日本を見ている。

オリンピックを中止しようとするなら、どういうシナリオがあるのだろうか。私ならば、このようなシナリオを描く。

アメリカが、「コロナ感染状況を勘案して選手団を送れない」と表明する。

コロナで安全が確保できないから、アメリカは選手団を送れないと表明する。そうすると、ただちに世界各国がアメリカの判断を支持するという表明がつづく、世界中の判断によって中止の流れができあがる。

歴史的に、コロナで中止になった。

となって、誰も悪くないとなる。後世、この場合、どうしたという戦略シミュレーションのテーマになり得る重大な決断が迫られている。

 


4.東京以外でも、できますからね

ネット・オンライン社会によって、コロナ禍前において「東京性」が実質的に必要でなくなったことに加え、コロナ感染管理が物理的に困難なほど「巨大化した人口集中都市」東京が敬遠され、「世界都市」東京でなければ味わえなかったオリンピックのようなシンボリックな「イベント性」もかすみだした。なによりも昨年から同じようなことを繰り返されるコロナ対策に辟易しだした。これらで、東京は一気に評価をさげた。みんなを惹きつける力が落ちた。

東京から住まいを別の都市や郊外に移す人々、東京から本社をひきあげる会社が増える。その人・企業に、“都落ちだね”とか“地方に行くのですか?”とは誰もいわなくなる。むしろ


そういう空気になった。これから「東京が中心である日本」はどうなっていくのだろうか。


(エネルギー・文化研究所 顧問 池永 弘明)


〔日経新聞社COMEMO 5月7日掲載分〕



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