こんにちは。エネルギー・文化研究所(CEL)研究員の遠座(おんざ)俊明です。
研究所が発行する情報誌「CEL」130号(2022年3月発行)では、「長寿社会の歩き方」をテーマに、各界でご活躍の方々と対談、インタビューを行ったほか、論考も寄稿していただきました。
このコラムでは、これまで定年後問題や高齢社会を研究してきて得た、ロングランの人生を生きていくこと、世代を超えて役立つ“気づき”について4回に渡って考えていきます。
定年後のリアル、会社や組織に頼り過ぎた人たちが陥る危機(その2)
前回、長寿化により定年後の時間消費という大きな課題があるというお話しをしました。
退職金ももらい、時間が自由に使えるなんていい身分ではないか、何を悩むのか? 現役世代の方々には不可解かもしれませんね。
しかし、このコロナで在宅テレワークをすることになり、自分が会社人であっても社会人でなかった、地域のことを何も知らなかった、時間を持て余す・・・と感じた中高年も少なくなかったようです。
◆家でダラダラする夫にストレスをつのらせる主婦たち
私はこれまで30年近く地域でボランティアやNPO活動をする中で、主婦の方々の声を聴いてきました。その中で多かったのが、夫が定年を迎え、家に居ることに対する妻のストレスでした。
・子どもが夏休みで家でゴロゴロしているだけでも鬱陶しいのに、夫まで居るなんて耐えられない。
・もうすぐ夫が定年になる。それを考えると気が狂いそうになる。
・夫が定年になるので、私は外で働くことにしました。
この経験が、私が「定年後の生き方」を研究テーマの一つに選んだ理由になっています。
◆さまよう定年市民
定年後、自分の居場所を見つけられた人はよいのですが、時間を潰すのに苦労している人もよく見かけます。図書館の新聞コーナーに終日陣取っている人、ショッピングセンターの休憩ベンチ、パチンコ店の開店待ちのごとく喫茶店が開店するのを列を作って待っている人たち・・・
大阪大学名誉教授(老年学)の佐藤真一先生は、“仕事に忙しくしていた現役時代には、いろいろなところに旅行をしたいと思っていても、それは非日常だから輝いて見えるのであって、いつでもできる=それが日常になってしまうと輝かなくなるよ”とアドバイスされていました。隣の芝生は青く見えるということでしょうか。
◆会社・組織依存マインドのもたらすもの
定年後に自分の居場所が見いだせない・・・これは、終身雇用制度が生み出してきた会社や組織依存のマインドと大きくかかわっています。
日本の高度経済成長時代を支えた終身雇用制度ですが、この言葉自体、実際は定年までしか会社に居ることはできないにもかかわらず、定年後のことについて思考停止にさせやすいマジックワードのように思われます。
指示されたことを効率よくこなすことを良しとし、そうしていればずっと会社が面倒をみてくれるという高度経済成長期のなごりのような考え方に浸かり過ぎると、自分への期待、目標も、組織や会社の枠の中で考えてしまうようになります。確かに目の前のことだけ考えていれば、ある意味“楽”です。会社など組織に属していると、仕事をしてもらうために教育や研修、定期的な給与、福利厚生、職場という人間関係のほかに、生活リズムまで与えてくれます。
しかし、こういった ある意味"保護された組織の枠”の中で長年生きていると、定年後の人生を切り開いていく、居場所を自ら作っていくという自立心を失いがちになっていきます。
◆Disuse syndrome (廃用性症候群:生活不活発病)
ノミを入れた箱の上にフタをすると、ノミは最初は勢いよく跳んでいてもフタに当たることに慣れるとフタまでしか跳ばなくなり、フタを取った後でもそれ以上は跳ばなくなるそうです。
人間も、走らないから走れなくなる、動かないから動けなくなる、使わないから使えなくなる。当然と言えば当然のことなのですが、特に高齢期にすることがなくなり、生活が不活発になることで、虚弱化が進み、要介護状態に突き進むため、この廃用性症候群(生活不活発病)には十分気を付ける必要があります。
東日本大震災で仮設住宅に移った高齢者が、環境の変化により外出などすることが減って生活が不活発化したことで、震災前に健常だった高齢者の3割近くが1年7カ月後の調査で歩行困難になっていたという調査結果があります(生活不活発病の予防と回復支援- J-Stage)。この生活不活発病は、入院する、コロナ感染予防で外出自粛することのほか、一人暮らしになる、定年になる、など人生・生活の変化から生じると言われています。
次回から2回は、生活不活発病の予防のため、継続的に地元宝塚市と共創して立ち上げた「健康・生きがい就労トライアル」事業の中で気づいた、人が生きるためのエネルギーについて、お話しします。
(第3回に続く・・・この連載は隔週でお届けする予定です)