「これからのエネルギー」 どうする? 熱需要
「エネルギーよもやま話」では、エネルギーに関する情報をワンポイントでわかりやすくお伝えしたいと思います。
いきなり「熱需要をどうする?」なんて言われても、ピンときませんね。
でも、熱需要を考えるって、とても大事なことなので、詳しくみてみたいと思います。
1.エネルギーの利用形態は、3つに分類されます
エネルギーの利用形態には、おもに3つあります。
電気、そして熱、最後に運輸です。
ご家庭のなかで考えてみましょう。
電気でしか動かせないもの、たとえばテレビや照明、そして冷房は電気需要です。
一方で、通常は灯油やガスをつかうイメージのものとして、風呂や給湯、厨房や暖房が熱需要にあたります。
運輸は、マイカーのガソリンや軽油ですね。
産業用や業務用でも、同じような分類です。
では、日本全体のエネルギー利用のうち、熱需要はどの程度の割合でしょうか?
答えは、約2分の1です。意外と多いですね。じつは、熱需要が半分を占めており、残りの半分を電気と運輸が分けています。
言い方を変えると、熱需要は電力需要の約2倍あるということになります。
では、このもっとも多い熱需要は、どうすればよいでしょうか?
電化、すなわち電気エネルギーへ転換する。
そうすれば、再生可能エネルギーで発電したクリーンな電気がつかえるようになる。
それも正解です。
ただし、すべての熱需要を電気でまかなうことは、現状では難しいとされています。
では、電気に転換できない理由とは、なんでしょうか?
産業用の分野では、たとえば鉄鋼加熱炉やガラス溶解炉など高温加熱が必要な設備の多くは、石油やガスで加熱されています。
これらの産業用設備で化石燃料が多く利用されているのは、なぜでしょうか?
それは、大容量の加熱エネルギーが必要だからです。
高温加熱には必然的に多くのエネルギーが必要となるのに加えて、大量生産によって省エネルギーを図っているため、大容量の加熱装置が採用されています。
同じように、低温加熱であっても大型設備であれば、その多くは化石燃料が使用されています。
蒸気ボイラや大型の食品加工機も、ガスをはじめとした化石燃料による加熱が主流です。
3.熱需要を電気に変えることが難しい物理的な理由とは?
大容量の加熱は、電気は不向き。
それは、なぜでしょうか?
そこには、物理的な事情があります。
石油やLPGであれば、燃料を工場内のタンクに貯蔵すれば、大容量加熱は可能です。
都市ガスも、高い圧力の導管を道路の下に敷設できれば、対応可能です。
しかし電気では、高圧線を新たに引いてこなければならないため、鉄塔の建設が難しいなど物理的に困難なケースもありえます。
わかりやすい事例として、規模はかなり小さくなりますが、家庭用の給湯機で考えてみましょう。
瞬間湯沸かし器として、24号を例にとります。24号とは、1分間に24リットルの水を25℃昇温することができる給湯能力を指します。ちなみに、一般的なシャワーでは、1分間に12リットルの温水をつかいます。
この瞬間湯沸かし器を、電気加熱に変えたとします。
すると、加熱効率を100%で計算しても、4万1,900W(ワット)の能力が必要になります。
電子レンジで500W、ドライヤでも1,000W、IHコンロの最大火力で3,000W。
一方で、瞬間湯沸かし器だけで4万1,900W以上を必要とするのです。
100Vや200Vの低圧受電では、到底まかない切れないほどの高い電圧の受電を必要とするのです。
もちろん、電気で加熱する温水機もありますが、お湯は貯めることができるため、夜中に時間をかけてお湯をつくるという工夫をしています。
もし、水を瞬間的にお湯に変えようとするには、電圧の高い電線を新たに引いてくるなどの対応をしなければならないのですね。
同じような理由で、産業用においても、大容量の加熱エネルギーが必要となる設備には、化石燃料が多く利用されているのが実情です。
こうした設備は水素に転換する、という方向もありますが、水素燃焼で今までと同じ製品が生産できるのか、これからクリアにすべき課題は多くあります。
「すべてを電化すれば解決」というような安易な発想では如何ともしがたい壁があり、まだ答えが見つかっていない世界がある。
こうした現実も一方にあるということを知ることも大切でしょう。
このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。
次回をお楽しみに。