世界のエネルギー事情 東欧諸国はすでに脱ロシアに動いていた!?
「エネルギーよもやま話」では、エネルギーに関する情報をワンポイントでわかりやすくお伝えしたいと思います。
ロシアによるウクライナ侵攻という、武力で現状を変える暴挙が現実に起こっています。それにともない、ロシア産天然ガスに関するニュースが多く報じられていますが、詳しくみてみたいと思います。
1.ロシアからヨーロッパへのガス供給パイプライン
ロシアとヨーロッパをつなぐ天然ガスパイプラインは、網の目のように張り巡らされています。
しかし、地図をよく見てみると、ロシアと西欧のあいだにはポーランドとウクライナが壁になっています。そのため、ここをまとめて考えると、4つのルートに集約されます。
天然ガスパイプラインのイメージ図(筆者作成)
もっとも重要なルートが、ウクライナを経由するルートです。
ここでも何本ものパイプラインが複雑に交錯していますが、ロシアからヨーロッパへの出口という意味において、まとめてウクライナ・ルートとして考えると理解しやすくなります。
また、最近になってロシアが供給停止を宣告したポーランドを通るルートと、黒海を横断してトルコを経由する南ルートもあります。
最後に重要なルートが、北のバルト海の海底を通ってロシアから直接ドイツへ送られるノルド・ストリームと呼ばれるパイプラインです。
これを日本でたとえると、北海道から日本海を通って九州まで送るのと同じ距離感です。
Google Mapに筆者加筆
このノルド・ストリームに並行して、ノルド・ストリーム2の敷設工事がおこなわれ、ドイツへの天然ガス供給量を倍増させる計画が進められていました。
アメリカのトランプ元大統領が経済制裁をちらつかせながら、ノルド・ストリーム2の工事中止を求めたことがあります。もちろん、制裁の大義など当時はどこにもありませんでした。
ドイツは、プーチン大統領と蜜月関係にあったシュレーダー政権を経て、メルケル前首相もロシアからの天然ガス依存を高める政策をとってきました。
しかし、ロシアによるウクライナ侵攻で、ノルド・ストリーム2が稼働する見込みは完全になくなります。
欧州パイプラインを巡る一連の動きは、大国間に翻弄された歴史の皮肉といっても過言ではないでしょう。
2.じつは、ポーランドは脱ロシアを進めていた
ポーランドは、もともと自国内で石炭が産出されるため、発電の7割近くを石炭発電でまかなっていました。
ポーランドのシロンクス炭鉱(ポーランド政府観光局HPより)
これからは脱炭素化にむけ、石炭から天然ガスへの移行も必要になってきます。その天然ガスは、ソ連の衛星国だった時代からロシアに頼っていました。
しかしポーランドは、ロシアの天然ガス依存から脱却する政策を着々と進めてきたのです。
ノルウェーからの天然ガス供給をあらたに契約し、さらには天然ガスの備蓄量を増やしながら、LNGの受け入れ基地の建設もおこなってきました。
そしてロシアに対して、天然ガス購入の契約は今年を最後に継続しないと、すでに通告も出していたのです。
なので、ロシアがルーブル支払いをしなかったことを理由に天然ガスの供給停止をしたことは、時期が少し早まっただけで、ポーランドにとっては織り込み済みのことだったのです。
3.ウクライナ問題をエネルギー経済の観点で眺めてみる
10数年前、ロシアがウクライナへの天然ガス供給の停止を勧告したにもかかわらず、ウクライナがヨーロッパむけのガスを途中で抜き取っていたことがありました。
当時のロシアはウクライナに対して、市場の3分の1以下の安い価格で供給していたにも関わらず、その支払いさえも滞っていました。
一方で、ウクライナを経由するヨーロッパへのパイプラインの使用料は、きちんとウクライナに支払われていたのです。
その後、ウクライナ国内で巨大な天然ガス田が発見されるとともに、ウランが国内で産出されることから原子力発電を推進しはじめたため、ロシアへのエネルギー依存度が低下していたのです。
ロシアは、ウクライナからの天然ガス販売収入が減少したにもかかわらず、ウクライナに対してパイプライン使用料を支払い続けている。
それに加えて、おもにウクライナ東部にあるシェール層からの天然ガス掘削がはじまり西側諸国へ流れると、ロシアは経済的に大打撃を受けることになります。
ウクライナ東部に広がるシェール層(JAEAより)
ロシアにとってのウクライナとは、エネルギー経済だけを見れば、マイナス要因でしかなくなっていたのですね。
どういった事情であれ武力の強制行使は許されるものではありませんが、エネルギーは需要と供給という経済性だけでなく、国際政治の駆け引きにも利用される戦略商品の一面もあるということを理解しておく必要がありますね。
このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、隔週のシリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。