こんにちは。エネルギー・文化研究所の小島一哉です。私の研究テーマは「地域社会の防災・減災」「レジリエンス」です。
防災の研究を本格的に行うようになって約10年が経過した。防災の研究を始めたきっかけは「東日本大震災」、そして、そのクラスを上回るともいわれている「南海トラフ巨大地震」の発生が近づいてきていることにある。当初は、災害や防災、しかも大規模な事案を中心に研究を進めてきた。国などと連携しながら岩手県大槌町、宮城県気仙沼市・石巻市をはじめ全国の各所で地区防災計画の策定を支援してきた。現在も幾つかの地区の防災力向上のための支援を行っている。しかし、何か物足りない、というか不十分だと自覚している。地区の方々から、「一般的な話は分かりました」、じゃあ「個別に」「この人をどうするの?」という話が出たときに、適切なアドバイスができていないように思うのだ。
大雨や地震による災害での犠牲者の多くは高齢者や障がい者など(以下、避難行動要支援者または要支援者)である。2018年の西日本豪雨や翌2019年の台風19号の犠牲者が要支援者であったことも受けて、昨年、国は、災害対策基本法を改定し、避難行動要支援者の「個別避難計画」を作成することを市町村の努力義務と規定した。また、介護報酬の引き上げ改定の際に、福祉事業者に2024年までに「事業継続計画(BCP)」の策定を義務付けた。
こうした動きも受けて、現在、防災と福祉の融合が進んでいる。福祉事業者の方から、「具体的にどうすればいいのか」との問い合わせも多い。神戸にある高齢者のデイサービス施設の従業員研修で話をしたときも、「ハザードマップで3mの浸水の可能性があるが具体的にどうすればいいのか」と、とても悩んでおられた。また、就労支援施設で働く知的障がい者に直接防災の話をしたときも、「こういうときはどうしたらいいか」「〇〇さんは歩けないからどうしたらいいか」など現場で本当に困ることをアドバイスすることの必要性を痛感した。こちらのほうが教えてもらうことが多かったように思う。
防災から福祉にアプローチするために、介護の「初任者研修」を修了し、一応「介護士」と名乗れるようにはなった。障がい者のボランティア活動などにもできるだけ参加している。大阪府が主催する障がい者のことをもっと知るための勉強会にも現在メンバーに加えていただいている。
先日、国際障害者交流センター(ビッグ・アイ)の館長で四天王寺大学名誉教授の愼英弘(しんよんほん)先生から話をうかがう機会があった。自らも視覚障がい者で、長く外国人の人権問題や障がい者の社会参加に取り組まれてきた方だ。ヘレン・ケラーと教師サリバン先生の話はとても参考になる。ヘレン・ケラーが決して奇跡の人などではなく、サリバン先生のすぐれた教育の結果である。映画「奇跡の人(The Miracle Worker)」は、3重苦を克服していったヘレンではなく、その教師サリバンを描いたものだとお聞きした。障がい者にも必ずどこかに開く門があって、そこにどう光をあてていくのか、幼少期に親から読んでもらった伝記とは違う角度で見ることができる。ノーマライゼーションの流れの中で健常者と一緒に社会生活を送るのか、どう支援していくのか。一人ひとりの個別プランが欠かせない。
現在、国(内閣官房国土強靭化推進室)と連携して、「ナショナル・レジリエンス・コミュニティ〜レジリ学園関西校」の世話役をさせていただいている。発足して4年余りが経過する。コロナで一時中断したが、これまでに20回以上開催した。各回、いろんな分野の有識者に登場いただいて防災や危機管理の話題を提供していただいている。うれしいことに、レジリ学園関西校は「2020年度ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)優秀賞」をいただいた。レジリ学園関西校でも、最近は、福祉や介護の実際的な話も多くなってきている。次回(9月)のテーマは「防災教育とジェンダー」である。メンバー間で幅広く知識を習得して、活発に意見を交換し、自分たちの知見を広げ、社会に還元していくというサイクルを作っていければいいと思っている。
■レジリ学園関西校facebook
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まずは、現在ホットな「福祉から防災へ」、「防災から福祉へ」。サリバン先生のように奇跡を起こすことはできないが、地道に地区に密着して、現在進行中の相互理解と相互参入に少しでもお役に立てればいいと思っている。