世界のエネルギー事情 アメリカは低炭素が進んでいる!?
「エネルギーよもやま話」では、エネルギーに関する情報をワンポイントでわかりやすくお伝えしたいと思います。
脱炭素化が叫ばれるなか、世界のエネルギー事情はどうなっているのでしょうか?
前回のフランスに続き、エネルギー消費大国アメリカをみてみたいと思います。
1.石炭大国アメリカの現状の姿は?
アメリカは、トランプ元大統領が地球温暖化に懐疑的であったため、パリ協定を離脱したりして、世界の脱炭素化の流れとは一線を画していた時期がありました。
アメリカは国内で石炭も産出されますし、シェールオイル(正式にはタイトオイル)といった石油もシェールガス(天然ガス)もたくさん採れます。
そのため、化石燃料を多く使っているイメージがあるかもしれません。
確かに、アメリカの電源構成をみても、その半分以上が石炭で賄われていた時代が長く続いていました。まさしく、石炭大国といっても過言ではない状態でした。
しかし、2008年頃を境に、アメリカは急速に低炭素へ向かい始めたのです。
アメリカの電源構成の推移 出展)資源エネルギー庁
グラフをみても、石炭(一番上のオレンジ色)の割合が2008年頃から急激に減少しています。それとともに増えているのが、天然ガス(ピンク色)です。
石炭発電から天然ガス発電に切り替わっているのは、経済的な理由からです。シェールガスという安価な天然ガスが国内で大増産させるようになったのが、2008年頃。そうして石炭の割合を減らしていったのです。
また、再生可能エネルギーも州によっては積極的に推進しています。カリフォルニア州の太陽光発電をはじめとして、砂漠地帯の風力発電やロッキー山脈の雪解け水を利用した水力発電などを増やしているのが実態です。
このようにして、アメリカでは二酸化炭素の削減が着実に進められてきたのですね。
2.アメリカのエネルギー基盤は盤石なのか?
トランプ氏が強気に出ていた理由として、もちろん氏個人の資質によるところが大きいのかもしれませんが、アメリカのエネルギー基盤の強さにもあったのかもしれません。
アメリカは低炭素に着実に向かっていますが、環境面での圧力や政策による強制力によって仕方がなくというより、経済的な理由で積極的に進められてきました。
石炭を発電に利用する理由は、日本も含めて通常は、石炭がもっとも経済的に優れているためです。なので、脱石炭を推進するには、なにかしら強制力がなければなかなか進みません。
しかし、アメリカでは莫大な量が存在するシェールガスを安価に掘る技術が確立されているため、石炭を使うよりも天然ガスを使うほうが経済的に優位になっているのです。
民間が自ら推進したいと思わせる条件が揃っているのですね。
アメリカの強さは、まだあります。
自国で産出された石炭を、発展途上国などへの輸出に回していることです。
ドイツも石炭大国でしたが、輸出に不向きな低品質の褐炭と呼ばれる石炭であり、石炭の国内利用を制限すると、それがそのまま石炭を掘削する産業の衰退につながることを意味しています。
ところが、アメリカでは石炭を掘削する事業は存続させていますので、イザという時は国内利用に回す余力を保っているというところです。
もちろん、アメリカがいつまでも盤石だとは言えません。
原子力発電の割合はずっと変わっておらず横ばい状態ですが、これはこれから低下していく方向です。
スリーマイル島の事故があって以来、アメリカでは原発の新設がおこなわれておりません。老朽化した原発は、延命処置を続けたとしても、いつかは停止します。そのすべての代替をシェールガスで賄うのか?
今まで、シェールガスは国内だけで利用してきました。しかし、ロシアのウクライナ侵攻以来、液化したLNGとしてヨーロッパへの輸出も視野に入ってきています。すると、否が応でも国際情勢に飲み込まれていくことになります。
もともと、アメリカ国民は省エネルギーとはかけ離れた生活を送っています。一世帯当たりのエネルギー消費量をみても、日本の2.5倍近くのエネルギーを消費しています。
アメリカは、エネルギーを爆食している今の生活を根本から変えていかなければ、抜本的な対策が難しい時代が迫ってきている、と言えるのかもしれません。。
このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。