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2022年10月13日 by 熊走 珠美

持続可能な未来を考える −情報誌『CEL』131号の取材レポート


こんにちは。エネルギー・文化研究所の熊走(くまはしり)珠美です。私は研究所が発行する情報誌『CEL』の編集を担当しています。今回は、9月1日に発行した最新号(131号)についてご紹介します。


1.特集テーマは、「持続可能な未来を考える」


情報誌『CEL』(60ページ)は全体の3分の2を「特集」ページが占めます。そのため、「特集テーマをどうするか」「誰にインタビューするか」「どんな事例を取り上げるか」は最も頭を悩ませる事案です。最近は研究員が順番に特集を担当し、制作会社の平凡社とともにテーマを決定しています。131号は、前田章雄研究員が特集担当となり、「持続可能な社会を実現するために、今、私たちができることは何か」について、さまざまな角度から考えました。


特集ページは、インタビュー、論考、対談、書籍案内からなります。コロナ禍前は現地での取材が主流でしたが、ここ2年間はオンラインでの取材が増えました。オンライン取材は時間や場所の制約が少ないというメリットがある反面、取材相手の微妙な反応や場の空気を読み取ることは難しいので、やはりリアルの取材にはかなわないと感じています。


■情報誌『CEL』131号(電子版)

   https://www.og-cel.jp/issue/cel/1309036_16027.html


2.対談の取材(シーラカンス食堂)に同行して


今回は特集最後の対談(P30−35)の取材に同行しましたので、その内容を少しご紹介します。


対談コーナーでは、特集担当の前田研究員が、兵庫県小野市にある合同会社シーラカンス食堂の代表であるデザイナーの小林新也さんにお話を伺いました。小野市で生まれ育った小林さんは大阪の大学に進学してプロダクトデザインを学びますが、在学中、島根県の組子細工の職人さんや香川県豊島の漁師さんとの出会いなどを通じて、日本の伝統産業が途絶えかけているという事実に直面します。そこで卒業後は地元に戻り、2011年、表具店を営む実家の蔵を改装して、デザイン会社「シーラカンス食堂」を起ち上げます。小野市には「播州そろばん」や「播州刃物」といった伝統産業がありますが、いずれも後継者不足が深刻でした。そこで、小林さんは従来のそろばんや刃物が持つイメージを変えること、つまり“リブランディング”することで、それらの全体の価値を上げる様々な取り組みを行います。また、自らのデザイン事務所に工房を開き、若者が高齢の職人さんから技術を学びながら働ける場を提供しました。こうして、日本の地方で埋もれている伝統産業を世界へ発信し、持続可能なものへと変貌させていきます。

 

■対談:地域に始まる持続可能性への途 −伝統文化の再定義で明日を拓く

   https://www.og-cel.jp/search/1309051_16068.html


詳細は、上記の記事を読んでいただくとして、取材時に私が一番強く感じたのは、「デザインがもつ力」です。小林さんは、デザインの本質は「価値の再定義」だとおっしゃいました。たとえば、過去の古い文化や価値をかっこよく見せること、頭で考えるだけでなく、「やりながら考える」ことが本来のデザインだと。改めて、デザインには無限の可能性があることを認識することができました。


2020年からは島根県大田市温泉津(ゆのつ)町で、完全自給のものづくりと職人育成を目指し、里山再生のプロジェクトも手掛ける小林さん。持続可能な社会をつくるうえで「人づくり」や「教育」の大切さを痛感されているそうです。日本社会において「一般教養」が弱くなっていることに危機感を覚えておられるという言葉には、私自身も強く共感を覚えました。


  カメラマンの撮影に応じる小林さん(左)と前田研究員(右)


■シーラカンス食堂のホームページ

   https://www.c-syoku.com/



3.取材時のエピソードなど


さて、ここからは余談的なエピソードを少し。


小野市は東播磨の中心、神戸市の西北部に位置します。大阪から電車を乗り継ぎ、2時間近くかけて小野駅に到着。シーラカンス食堂は駅からほど近い場所にあり、1階の工房では若い職人さんが刃物づくりにいそしんでおられました。取材は2階の事務所で行いましたが、部屋の一角にあるテーブルには、多種多様のハサミやナイフが美しく陳列されていました。そろばんの珠を利用した時計や人気商品の「富士山ナイフ」も、そのデザインが目をひきます。

(そろばん珠の時計は、131号の表紙にも掲載させていただきました)

           播州そろばんを使った時計や知育玩具(左)、海外でも人気の富士山ナイフ(右)


取材中、小林さんの口調は終始おだやかでしたが、伝統産業の継続にかける熱い想いがひしひしと伝わってきました。最後に「シーラカンス食堂」の命名の由来をお聞きしたところ、「Mr.Childrenの『深海』というアルバムの『シーラカンス』という曲がきっかけなんですが・・・」という意外な答えが返ってきました。「シーラカンスの学術用語 coelacanth =『中空の骨がいくつも連なった脊柱』という意味が、何億年と進化せずとも生きてこれたこの魚のデザイン的本質であり、それを名前にしていることに感銘を受け、デザインのことを人に説明する時にシーラカンスを用いようと考えついたからです。あと、『食堂』ですが、日本人はいろんな魚を食べるけど、シーラカンスは食べない。食べないのに知っているというところから、食堂と後にくることで名前にインパクトを持たせ覚えてもらえると考えたからです。地域に根差すデザイン事務所を立ち上げる瞬間だったので、地域の食堂のような温かみのある会社になったらという想いもこめました」。


なるほど、確かに気になる会社名ですが、ここでも小林さんのセンスを感じることができました。


 


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