日本経済をエネルギーの視点から眺めてみよう!
「エネルギーよもやま話」では、エネルギーに関する情報をワンポイントでわかりやすくお伝えしたいと思います。
1.したたかな日本の輸出産業
下に示すのは、日本の国際収支の推移グラフです。
左の縦軸が国際収支の金額〔兆円〕を、右の縦軸が為替〔ドル円〕を示しています。
「ドル円」と書かれている為替の線を見てみましょう。1965年に360円からはじまって、年代とともに下降して(=円高になって)います。1985年のプラザ合意で160円を下回ってからは、ずっと円高の状態が続いています。
つぎに、貿易収支(斜線棒)を見てみましょう。
プラザ合意で円高に振れたにもかかわらず、made in Japan製品の人気は衰えず、日本の貿易収支は黒字を拡大させ続けます。Japan as NO.1の時代の到来です。
しかし、2008年の石油高騰から翌年のリーマンショックを経て貿易黒字が縮小したところに、東日本大震災が起こります。2011年のことです。
ここで貿易収支が一気に赤字に転落します。原子力発電所がすべて停まったことを受け、天然ガスなどの代替燃料が緊急輸入され、価格が高いスポット取引であろうがなんであろうが、兎にも角にも電力確保のために買いあさった結果です。
同じ現象は、エネルギー価格が高騰している2022年の現在も起きています。
最後に、貿易収支の下で、プラザ合意の頃から黒字が拡大し続けている棒グラフをご覧ください。これは第一次所得収支を表しており、近年は約20兆円にまで膨れ上がっています。
第一次所得収支とは海外へ投資したリターンのことで、外国企業の株式や債券などの取引の結果だけでなく、日本の企業が海外へ工場を進出させた収益もここに含まれています。
円高に苦しんだ輸出産業は、海外へ活路を見いだし、海外企業への投資にはじまり、海外への工場進出へ舵を切ったのですね。
円高が変えたのは、輸出産業だけではありません。国内需要向けであっても、海外で生産して日本へ逆輸入するユニクロスタイルを選択する企業もあとを絶ちません。エネルギーを多消費する部品製造メーカーも、こぞって東南アジアなどへ工場を進出させ、日本へ逆輸入しています。
そうして、過去の貿易黒字をはるかに上回る黒字を第一次所得収支が叩き出すようになりました。
2.日本は、円安と円高のどちらが良いの?
最近、円安に拍車がかかっています。
もともと「円高不況」とか言っていたのに、今では「悪い円安」なんて叫ばれています。これは、いったいどういうことなのでしょう?
じつは、収入が決まっている庶民にとっては、円安よりも円高のほうが生活は楽になるという現実があります。
日本は、エネルギーでも食料でも、あらゆる資源の多くを海外からの輸入に頼っています。すると、一般の給与取得者や年金生活者にとっては、円高のほうが安く生活できるのですね。
しかし、長い目で見ると、国内の産業や雇用が海外に奪われ、経済成長が鈍化していく。にもかかわらず、生活に必要な資源や製品を海外から買い続けなければならない。その費用はどうやって捻出するのか。
工業製品をはじめとする加工貿易による輸出なのか、一次産品やアニメといった知財などの海外資源に頼らない輸出なのか、インバウンドによる国内消費の拡大なのか、正解はわからない。おそらく、これらの複合的な産業構造によって資源を調達する資金を確保することが、日本の生きる道なのでしょう。
外貨を稼ぐいずれの産業においても、円安のほうが収益向上に寄与します。このように、マクロ経済の長期視点で考えると、日本は円安のほうが都合いいわけです。
しかし、長く続いた円高に苦しんだ結果として、日本が得意としてきた製造工場までもが海外へ生産移転してきました。円安になったからといって、すぐに製造拠点を国内に戻すことができません。
こうしたタイムラグによって起こった企業と生活者の実態の乖離として、「悪い円安」と表現されているのですね。
アメリカでも同じことが起こりました。
そこで、シェールガスという安価なエネルギー供給が可能になったことを背景に、おもに中国へ移った製造拠点を国内回帰させようと、トランプ前大統領が躍起になりました。工業が衰退したラストベルト(錆びた地帯)の人々がトランプ支持に回った理由が、ここにあります。
しかし、剛腕トランプでさえ、一度海外へ渡してしまった製造業を国内へ取り戻すことは、容易ではありませんでした。
前回のコラムでお話ししたように、日本は近年もエネルギー効率が改善し続けています。これは、エネルギーを多消費する工場が海外へ進出した結果とも言えます。
もちろん、エネルギー消費産業だけに頼らなくても収益が上がる産業構造に転換している、という良い面もあるでしょう。
一方で、あらゆる自給率が先進国のなかでも最低レベルの日本は、資源の多くを海外から買い続けなければなりません。ロシアによるウクライナ侵攻をはじめとして東西対決が再燃しているように、世界は混迷の時代を迎えつつあります。
資源を受け取る代わりに、なにが提供できるのか。おカネさえ払えばいつでもモノが買える時代ではなく、相手にとってなくてはならない関係になることが日本に求められるようになるでしょう。
どんな時代になっても生き残ることができる多様性のある日本ならではの産業構造はどうあるべきか、グラフからも読み解いていかなければなりません。
次回は、日本企業の海外生産の実態を感じていただこうと思います。
このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。