【エネルギーの利用】ガス空調って、なぜ冷えるの?
「エネルギーよもやま話」では、エネルギーに関する情報をワンポイントでわかりやすくお伝えしたいと思います。
こんにちは。エネルギー・文化研究所の前田章雄です。
前回のコラム『エネルギーよもやま話21』で、「家庭用の空調機は電気式がほとんどだが、大型の設備にはガス空調もある」とお話ししました。すると、「ガスでなぜ冷えるのか?」というご質問を頂戴したので、お答えしたいと思います。
1.冷やす原理は、すべて気化熱を利用
電気で動く空調であろうが、ガス式の空調であろうが、冷やす原理は同じです。どちらも気化熱という物理現象を利用しています。
玄関先に打ち水を撒いたり、注射を打つ際にアルコールを腕に塗ったりすると、ひんやりします。水やアルコールが蒸発する際に、まわりから熱を奪う。これが気化熱です。
気化熱のイメージ 出典)経済産業省
液体の状態では、原子や分子の移動がそこそこ制限されています。これらが気体になると、空気中を自由に飛び回ります。飛び回るということは、それだけのエネルギーをもっているということ。
ヤカンに火をかける、つまり液体の水にエネルギーを与えると、水分子が気体状態の水蒸気となって飛び回ります。
逆に言えば、打ち水のように大気の湿度との関係で水が蒸発する場合でも、水分子がエネルギーをもって飛び回るためには、周りからエネルギーを奪っていることになります
これが、気化熱です。打ち水をすると、周辺の温度が下がります。
ただし、打ち水ではゆっくりとしか蒸発しません。そこで、密閉空間の中で気圧を強制的に変えてやります。
富士山の山頂では気圧が平地よりも低いため、水は100℃よりも低い状態で沸騰します。ですから、山頂でカップラーメンをつくっても芯が少し残ります。もっともっと気圧を下げてやれば、沸点はさらに下がります。
つまり、密閉空間内で気圧を下げてやれば、中にある液体が簡単に蒸発してくれて、周辺からエネルギーを奪って温度を下げるのです。電気空調でもガス空調でも、この気化熱を利用しています。
2.ガスヒーポンは、どうやって冷やしているの?
ガス空調にはガス(G)ヒート(H)ポンプ(P)エアコン、略してガスヒーポン(GHP)という仕組みがあります。
ヒートポンプという仕組み自体は、ガス式だけでなく電気式でも同じ原理です。とくに家庭用の小型エアコンでは、電気ヒートポンプが主流になっています。
ガスヒーポンの仕組み 出典)アイシン
ヒートポンプエアコンでは、室内機と室外機があります。その間を冷媒が循環しています。
冷房運転では、室内機(図の左側)で冷媒が膨張弁を通って圧力が急激に下がることで、蒸発して気体になります。その際に空気中の熱を奪います。
一方の室外機(図の右側)では、冷媒がコンプレッサーで圧縮されて液体に戻ります。その際に熱を放出します。
コンプレッサーで冷媒を循環させることで、熱を左(室内機)から右(室外機)へポンプのように移動させるので、ヒートポンプと呼ばれています。暖房運転では、冷媒の流れを逆にします。
電気式の場合は、コンピレッサーに電気をつないで回転させます。ガス式では、コンプレッサーにガスエンジンをつないで直接駆動させます。コンプレッサーを動かす仕組みが違うだけで、冷やす(暖める)原理はどちらも気化熱を利用しています。
ここで、家庭用エアコンは電気式が主流だと述べました。その理由は、ガスエンジンは大きい、重い、価格が高い、メンテナンスが必要などの欠点があるためです。
一方で、業務用のような大型空調になってくると、ガス式の経済性(エネルギーコストの削減)や電力デマンドの低減、一次エネルギー換算の省エネ性などのメリットが重要となるケースも出てくるため、状況に応じてつかい分けられています。
3.ガス吸収冷温水機も、ガスでなぜ冷えるの?
業務用や産業用のさらに大型の空調には、ガス吸収冷温水機がよく利用されています。これらは、ヒートポンプ式とは動かす仕組みが違いますが、冷やす原理には気化熱を利用しています。
(吸収冷温水機の仕組みの説明はややこしいので、少し覚悟して読んでください)
吸収式冷温水機の仕組み 出典)東京ガス
吸収冷温水機では、冷媒に水をつかっています。水は真空状態になると、すぐに蒸発してくれます。
図では、左下の蒸発器が真空状態になっています。そこに液体の水を降らせると、一瞬で蒸発します。蒸発する際に周りから熱を奪うので、そこで冷水がつくられます。
この冷水を建物内に循環させ、部屋の中の装置で冷水に風を当ててやることで冷房ができます。
冷やす原理は、これだけです。水の気化熱を利用しています。
ただし、これを連続運転させる必要があります。蒸発器で水が気体になると、せっかくの真空度が保たれません。水蒸気が充満してしまうと真空ではなくなるため、それ以上の蒸発ができなくなります。
そこで、水蒸気を取り除いてやる必要がでてきました。
図の右下の吸収器では、吸収液を降らせています。吸収液には、水(水蒸気)をよく吸収してくれる性質があります。これで、蒸発器の真空が保たれることになりました。
しかし、つぎの問題が生じます。吸収液が水分で薄まって、しゃばしゃばになってしまいます。
なので、右上の再生器で吸収液を加温してやることで、水分を追い出して再利用できるようにしています。この加温にガスの燃焼熱をつかっていますが、加温できるのであれば、蒸気の熱を利用することもできます。
ここでいう蒸気は、コージェネレーションといって発電する際に発生する廃熱として出てくる蒸気をつかっても構いませんし、クリーンな水素を燃料としてつくられた蒸気でも構いません。
吸収冷温水機は、脱炭素社会に向けた用途拡大として、さまざまな活用方法が考えられますね。
このように、これはどうやって動いているのか、という原理を知ったうえで考えれば、私たちの発想はもっともっと豊かになっていくことでしょう。
このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。