【エネルギーの利用】エネルギーを大量消費する製鉄工場!
「エネルギーよもやま話」では、エネルギーに関する情報をワンポイントでわかりやすくお伝えしたいと思います。
こんにちは。エネルギー・文化研究所の前田章雄です。
エネルギーの話をする際に、そのエネルギーがどこでどのような形で利用されているのかを知らずして議論することはできません。ここでは、エネルギーを大量消費する製鉄工場について、簡単にご紹介します。
1.鉄鉱石を溶かしてつくる「鉄」
高度経済成長期に「産業のコメ」と呼ばれていた「鉄」。鉄は、自動車の製造をはじめとして、あらゆる機械や建築物の骨格を成しており、鉄なくして産業を語ることはできません。
その鉄は、海外から輸入した鉄鉱石を溶かしてつくられます。
地球の内部には、重たい鉄が多く含まれています。海底火山から噴き出た鉄分はヘマタイト(赤鉄鉱)といい、海底へ沈殿し、大地の隆起とともに地表へ出てきます。オーストラリアなどの大陸で大量に採れる鉄は、ヘマタイトです。
少し脱線しますが、火山国の日本では、火山活動で地表に出た鉄がそのまま冷えて固まっています。ですから、マグネタイト(磁鉄鉱)が砂鉄という形で少しだけ産出されます。採れる量が少ないのは、砂鉄が川で流されたりしているためです。
日本古来のたたら製鉄という手法はマグネタイトに適しており、海外から輸入した大量のヘマタイトは高炉による還元製鉄をします。
ヘマタイト(赤鉄鉱:Fe2O3)は、その名の通り赤く酸化した酸化鉄を含んだ塊です。純粋な鉄(Fe)をつくるには、酸化鉄から酸素を追い出す還元という工程が必要になります。
そこで、高炉と呼ばれる巨大なとっくり形状のレンガ構造物の中に、鉄鉱石とコークスを投入し、鉄鉱石を溶かしながら、中に含まれる酸素成分(O)をコークスの炭素(C)と反応させることで還元して、純粋な鉄をつくります。
(正確には、さらに不純物を除去するための転炉という設備もあります)
高炉と転炉(鉄鉱石の融解)
高炉をもつ製鉄会社は、自社内で石炭を蒸し焼きしてコークスをつくります。
そのコークスを製造する際に、一酸化炭素(CO)や水素(H2)といった、まだ燃えるガスが出てきます。また、高炉からも還元反応して残った一酸化炭素や水素が出てきます。
これら排気ガスの燃える成分を活用するために、排気ガスを集めて巨大なボイラに投入し、燃やして蒸気をつくります。つくられた蒸気でタービンを回し、発電もしています。
蒸気による自家発電 出典)電気事業連合会
発電した電気は工場内で自家消費されますが、大きな製鉄所の場合、そこで発電された電力量は、九電力のひとつである沖縄電力が一年間で発電した電力量よりも多くなっています。たったひとつの製鉄所を見ても、それほど大きな規模で製鉄をおこなっている、ということです。
これらの排気ガス中の一酸化炭素(CO)はボイラで燃やされて、最終的にすべて二酸化炭素(CO2)に変わります。つまり、製鉄工程では大量の二酸化炭素が排出されているのですね。
2.世界に目をむけてみれば?
大量の二酸化炭素を排出する製鉄業。もちろん、これは日本だけのお話ではありません。
あらゆる機械や建築物の基となる鉄は、世界中でつくられています。そうしたなかでも、日本の製鉄業は別格でした。
1960年代の高度経済成長時代、日本は鉄鋼の生産量を急激に伸ばします(グラフの黒線)。当時、自動車をはじめとした有数の工業生産を誇っていたアメリカ(ピンク線)から世界一の地位を奪取すると、「鉄は国家なり」と豪語する「1億トン時代」が続きます。
(昔は当時のソ連(青線)が1位になっていますが、衛星国まで合計した数値のため除いています)
鉄鋼生産量の推移 出典)日本鉄鋼連盟に筆者加筆
日本が鉄鋼生産量約1億トンを続けるなかで、中国(赤線)も生産量を増やしつつありました。
そしてついに1996年、中国が日本を抜いたのです。しかし、「中国は低品質な安物の鉄を国家戦略で大量につくっているだけ」と見る風潮が日本国内にあったことは否定できないでしょう。
特筆すべきは、そこからです。
あれよあれよという間に中国はさらに生産量を伸ばし、2020年には10億トンに達しています。なんと日本の10倍!
それどころか、近年の日本は高炉の数を削減しており、30基以上あった高炉が今では20基余りとなっています。今後は、1億トンも生産することはないでしょう。
中国は日本の10倍以上を生産し、インドもすでに日本を抜いています。
粗鋼生産量の推移 出典)日本鉄鋼連盟に筆者加筆
もちろん、日本の粗鋼生産量が減ったからダメ、なんてことを言いたいわけではありません。
二酸化炭素を大量に排出する製鉄ですが、世界の人口が増え、アジアやアフリカの人々の生活レベルもますます高くなっていく。これはこれで望ましい発展の姿ではありますが、一方で地球環境に多大な負担を強いているのが今の姿であるということは、私たち一人ひとりが認識しておくべき事実でしょう。
次回は、製鉄工程における脱炭素について、見ていきたいと思います。
このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。