「エネルギーよもやま話」では、エネルギーに関する情報をワンポイントでわかりやすくお伝えしたいと思います。
前回のコラムでは、あらゆる産業の基となる鉄をつくる製鉄工程から大量の二酸化炭素が排出されている実態についてみてきました。では、いったいどうすれば製鉄の脱炭素が実現できるのでしょうか?
1.電炉とは、どういうもの?
鉄鉱石から大量の鉄をつくるには、高炉と呼ばれる設備に鉄鉱石とコークスを投入して、還元製鉄をします(以前のコラム参照)。
排気ガス中の可燃性の成分も回収して再利用しているため、とても効率のよい製造方法なのですが、脱炭素という視点で見れば、二酸化炭素を大量に排出してしまっているという課題があります。
鉄をつくるには、高炉のほかに電炉という設備もあります。
電炉とはその名の通り、電気のエネルギーで鉄を溶かします。鉄の溶解には大量のエネルギーが必要となるため、電力会社と特別な契約をして、夜間だけの操業をしています。
電力会社は、昼間の需要に合わせて発電設備を建設していますが、夜間は需要が少なくなるため、発電機を停止したりして調整しています。そこで、製鉄を夜間だけの操業にしてもらうかわりに、割安の電気代で供給しています。
電炉の操業状態 出典)中部鋼鈑
電炉の工場は、昼間は誰もいない閑散とした状態ですが、日が暮れるとともに人が動き出し、夜になると真っ暗な工場のなかで通電するバリバリという轟音とともに、鉄を溶かした火花が飛び散りはじめます。やがて、真っ赤に溶けた鉄が流れ出ていきます。
電炉の模式図 出典)中部鋼鈑
電気では高温の加熱ができないと言われることがありますが、これは間違いです。天然ガスでも石油でも、火炎温度以上の溶解はできません。一方で、電気による加熱は、電極さえ高温に耐える材質のものをつかえば、火炎による加熱以上の高温溶解も理論的には可能です。
ただし、鉄鉱石を溶かすには還元反応も必要となるため、電炉は鉄スクラップの溶解に限定されているのが実情です。
2.鉄スクラップのリサイクル
自動車をはじめとして、鉄を含んだ設備をつかい終わったら、鉄くずとして回収されます。鉄くずは集められ、電炉で再溶解されてリサイクルされます。
ここで問題が生じます。鉄といっても種類があって、鉄(Fe)にクロム(Cr)やモリブデン(Mo)などの希少金属を添加して、歯車なら歯車にあった性質を、刃物なら刃物にあった性質を得ています。
高炉でつくられた鉄であれば、純粋な鉄に所定の元素を添加すればいい。でも、あちこちから集められた鉄くずには、すでにさまざまな元素が含まれてしまっているため、特殊な製品をつくることはできません。とくに、銅やスズなどの不純物は取り除くのが難しく、高級鋼の製造には向いていません。
そのため、電炉でリサイクルされた鉄製品は、H形鋼など一般構造用鋼材として再利用されます。逆に言えば、電炉でリサイクルされる鉄製品の種類は限られている、ということです。
つまり、高炉をすべて電炉に変えることはできない、というのが現実です。
3.製鉄における脱炭素とは?
製鉄工程における脱炭素には、ふたつの方向性があります。
ひとつは、高炉に投入するコークスを水素に換えることです。水素も還元性がありますから、コークスの代替になることは可能です。
ただし、技術的・経済的ハードルがとても高い。水素(H2)は確かに還元性、つまり酸素成分(O)を奪う性質がありますが、酸素を奪ったあとは水(H2O)となって酸化性が強くなってしまいます。
還元したいのか、酸化したいのか、どっちなんだ! という状態にならないようにするには、過剰な量の水素を投入して、反応雰囲気を水分よりも水素成分が多くなるようにしなければなりません。
日本は、酸化して不純物の多い安価な鉄鉱石を安く買い、それを安価な石炭をつかって還元して高品質な鉄をつくる、という加工貿易で経済発展してきました。
高価な水素を大量に投入する手法では、そもそもの競合力がなくなってしまう、といった大きな課題が生じます。そのため、製鉄各社は涙ぐましい努力をして、そのハードルをなんとかクリアにしようと技術開発に力を注いでいます。
脱炭素へのもうひとつの方向性は、電炉の活用です。
でも、ちょっと待って! 電炉では、高炉と同じ高品質な製品がつくれない、と言いました。そこで出てきたのが、還元鉄というものです。
還元鉄とは、鉄鉱石を低温の状態で化学的に還元させたものです。これだと、電炉でも溶かすことができるようになります。
もちろん、話はそんなに単純なことではありません。
高炉で大量生産している鉄すべてを電炉に切り替えることはできるのか?
電炉でつかう大量の電気をすべて再生可能エネルギーで賄うことはできるのか?
そもそも、還元鉄を脱炭素な状態でつくることはできるのか?
など、克服すべき課題は多くあるのですが、進めることができるところから努力して実現させつつある、というのが製鉄産業のおかれている状況でしょう。
このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。