【エネルギーの利用】 鍛造は、刀鍛冶と同じ!
「エネルギーよもやま話」では、エネルギーに関する情報をワンポイントでわかりやすくお伝えしたいと思います。
こんにちは。エネルギー・文化研究所の前田章雄です。
エネルギーの利用現場について連載していますが、今回は製鉄所でつくられた鉄がどのように形づくられ、そこにどうエネルギーが関わっているかを見ていきたいと思います。
1.もう一度真っ赤に加熱する圧延と鍛造
製鉄所の高炉や電炉でつくられた鉄の塊は、インゴットと呼ばれます。まだ大きいので小さい形にしていきますが、切断するのではなく、もう一度真っ赤に加熱して柔らかくし、圧力を加えて変形させることで小さくしていきます。
圧延炉 出典)大阪ガスカタログ
なぜ、切断して小さくしないのか?
そこには、ふたつの理由があります。金属の結晶組織がもつ繊維状の流れを断ち切らないためと、高温状態で押しつぶすと組織が緻密になるためです。いずれも、粘り強い材料を得るのが目的です。
そのため、おもに重油や灯油、あるいは天然ガスを用いた圧延炉で加熱した鋼材をロールとロールの間を通して板にしたり、丸鋼にしたり、H型鋼にしたりして成形します。
少し古い映画ですが、『ブラックレイン』で故松田優作さんとマイケル・ダグラスが真っ赤な鉄が流れる工場の中で格闘するシーンがありました。私は撮影につかわれた工場をよく知っておりましたが、溶けた鉄が転炉から圧延炉へむかう工程の場所だったと記憶しています(現在は閉鎖・解体済)。
あとで聞いた話ですが「撮影の際は工場内に作業員が多数いたのに、映画を見ると誰も写っていなかった」とのこと(笑)。
圧延炉を出た鋼材がそのまま製品になることもありますが、歯車などのさらに小さい部品をつくる場合は、鋼材を所定の大きさに切断し、切った鋼材を再加熱してから叩いて成形します。これが、鍛造という工程です。
鍛造でも、金属結晶の繊維状の流れ(メタルフロー)を切らずに、つぶせばつぶすほど強度が高くなります。
メタルフローの説明 出典)メタルアート
このような理由から、部品を成形するまでには、鋼材を何度も再加熱しています。
鍛造の加熱にも重油や灯油、あるいは天然ガスがつかわれますが、小さな部品の加熱には電気のIH(インダクション・ヒータ)が利用される場合もあります。
IH加熱は短時間で昇温できるメリットがありますが、表皮だけが極端に加熱される傾向にあるため、製品の大きさや形状、そして企業のニーズに合わせて加熱の燃料が選択されます。
2.鍛造は、刀鍛冶と同じ!
鍛造と聞けば、刀鍛冶を思い浮かべる方も多くおられます。真っ赤に焼いた鉄を何度も何度も叩いて鍛え、長い刀の形にしていきます。
ハンマーで叩くことで金属結晶が緻密に押し固められ、さらには折り返しながら伸ばしていくことで結晶繊維の流れを複雑なものにしていきます。
ハンマーで叩いた際に火花が出ますが、この火花は不純物です。何度も叩くことで純度を高めていきます。
現代の鍛造も、これと同じです。ただし、もともと不純物が少ない材料を使用しているため、叩くのは成形が目的です。
余談ですが、日本刀は二重構造になっています。
日本刀の二重構造 出典)故大和久重雄氏資料
中心部は玉鋼と呼ばれる鉄で、純鉄に近いものです。その玉鋼を挟み込むように、炭素を多く含んだ高炭素鋼をくっつけています。
純鉄はとても柔らかいのですが、逆に折れにくい性質があります。一方で、高炭素鋼はとても硬い代わりに、もろい。すぐに折れてしまいます。
刀は、刃の部分は硬くなければものを切ることができませんが、芯からポキポキ折れてしまっては役に立ちません。そのため、このような二重構造をしています。
ご家庭でつかわれる鋼製の包丁でも、同じ二重構造になっています。
ただし、菜切り包丁は片側だけに高炭素鋼をつけています。そのため、刃先を研ぐ際に両刃と同じように両面を研いでしまうと、柔らかい材質が刃先に出てしまうため注意が必要です。
最後に、成形した刀をもう一度真っ赤に熱して水に“じゅん”と漬ける焼き入れをおこないます。これが熱処理と呼ばれる工程です(次回のコラムに続く)。
このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。